4995ヴァラール年 マンウェはタニクウェティルで祝宴を開き、ノルドールの間にある不和を取り除こうとする。
フェアノールは渋々ながら出席し、その席上でフィンゴルフィンが誓った「兄(フェアノール)を赦し、一切の不満を忘れて、彼が先に立って導くなら自分はその後についていく」という言葉を一応は受け入れ、手を取って和解した。
しかし祝宴の間、無人となった都をメルコールとウンゴリアントが急襲した。
メルコールとウンゴリアントは二つの木の前に来ると、メルコールが黒い槍で二つの木を髄まで刺し貫いた。
木は深傷を負って樹液が血のように流れ出た。ウンゴリアントはそれを吸い上げたうえ、二つの木の傷口に口を当て樹液を一滴残らず飲み干した。
そしてウンゴリアントの体内にある致死の猛毒が木に入って二つの木は枯死した。それでもまだ足らず彼女はヴァルダの泉をも飲み干した。
そして見るもおぞましい巨大な姿に膨れ上がり、黒い煙霧を吹き出した。その姿はメルコールさえ恐れをなすほどであった。
こうしてアマンにはそれまでになかった恐るべき暗闇が招来された。ヤヴァンナは、シルマリルに保存された光を取り出せば二つの木を蘇生させることができると訴えたが、フェアノールはシルマリルを引き渡すことを拒否する。
さらにメルコールとウンゴリアントはフォルメノスを襲撃してフィンウェを殺害、シルマリルを奪い取った。
これを知ったフェアノールが彼をモルゴスと呼び、以後はその名で呼ばれるようになる。
フェアノールは、ノルドール族を前に大演説を行い、モルゴスへの復讐とシルマリルの奪還を訴え、ヴァラールの束縛から逃れて自由を得るために中つ国へと帰還するよう扇動した。
この時、フェアノールと彼の七人の息子たちは、相手が誰であろうとシルマリルを持つ者を、復讐と憎悪をもって追跡するという誓言を立てた。
こうしてフェアノールは、アマンのノルドール族の九割もの賛同者を得て、中つ国への進軍を開始した。
フェアノールはテレリを説得して彼らの船で大海を渡ろうと考える。だがフェアノールは、テレリやその王であるオルウェを説得することができなかった。
そこでフェアノールは自らの軍勢を集めて力ずくで船を奪い取ろうとし、それを阻止しようとするテレリとの戦闘に発展する。これがエルフによる最初の同族殺害である。
双方に多数の死者を出した末に、装備に勝るノルドール軍が勝利を収め、テレリの船は強奪された。
一方中つ国へと逃亡したモルゴス。ウンゴリアントは暗闇を紡ぎだして襲撃と逃走を大いに助けたが、そのためにモルゴスは彼女から逃れることができなかった。
ウンゴリアントは二つの木の樹液とヴァルダの泉を飲み干して巨大に膨れ上がり、さらに逃走後にはメルコールにノルドールの宝石を要求してそれらをすべて喰らい、さらに強大になってしまった。
彼女はシルマリルをも要求したが、メルコールが拒んだため、怒ったウンゴリアントは彼を糸にかけて息の根を止めようとした。
だがこの時メルコールは恐ろしい叫び声をあげ(そのためにその地は以後ランモスと呼ばれるようになった)、その声に呼び起こされてアングバンドからバルログたちがやって来た。
バルログたちは火の鞭で糸を切り裂いてメルコールを救出し、ウンゴリアントは煙幕を吐いて逃走した。
その後ウンゴリアントはシンゴルの王国への侵入を試みたがメリアンの力に阻まれたため、その北にあるエレド・ゴルゴロスの麓の谷間に長く住み着き、その地にいた蜘蛛の姿の怪物たちと番い、かつ彼らを喰らって子を残した(シェロブや闇の森の蜘蛛はその末裔に当たる)
やがてウンゴリアントは忘れられた南の地へ去った。その後の彼女について伝える物語はないが、飢えた極みに自分自身を喰ってしまったとも言われている。
4996ヴァラール年 ノルドールはヴァリノールから追放され、マンドスの予言と言われる恐ろしい運命を予言された。
だがフェアノールと息子たちはあくまで進軍を取りやめようとしなかった。フィナルフィンは進軍をやめて引き返したが、フェアノールへの誓いに縛られていたフィンゴルフィンと、フィンゴルフィンの息子たちを見捨てられなかったフィナルフィンの子供たちも進軍を続けざるをえなかった。
マイアのウイネンは同族殺害で殺されたテレリ族の死を悲しみ、怒りによって海を荒らして多くの船を難破させ、乗っていたノルドールを溺死させた。
4997ヴァラール年 ヴァラールは月と太陽を創り始めた。
金の木ラウレリンが最後に生じさせた黄金の果実をヤヴァンナが摘み取り、マンウェが聖め、アウレとその一族が作った入れ物に収められた太陽の船は、マイエのアリエンによって導かれることになった。
銀の木テルペリオンが最後に生じさせた銀の花から作られた月はマイアのティリオンによって舵が取られることになった。
4997ヴァラール年 モルゴスはアングバンドに戻って、ベレリアンドを奪取しようとした。ベレリアンド第一の合戦である。
アングバンドから出撃したオークの軍勢が、モルゴスの送り出す雲に隠れて北方の高地地方に入り、そこから大挙してべレリアンドに侵入し、東と西に分かれてメネグロスの両側を襲った。
東の軍勢はケロン川とゲリオン川の間を、西の軍勢はシリオン川とナログ川の間の平原を略奪し、シンゴルはエグラレストのキーアダンとの連絡を絶たれた。
シンゴルはナンドール・エルフのデネソールに救援を要請し、アンドラムの北方、アロス川とゲリオン川の間で、東のオークの軍勢を攻撃した。
レギオンとオッシリアンドのエルフの軍勢に挟み撃ちにされたオークの軍勢は完敗し、北に逃げた者もドルメド山から出撃したドワーフに討ち取られ、アングバンドへ逃げ延びた者は僅かだった。
だがオッシリアンドのエルフはオークに比べて軽装だったため、オークには敵わず、デネソールはアモン・エレブの山頂で包囲された末に討ち死にした。
また、キーアダンは西のオークの軍勢に敗北して海岸際まで追いやられ、ファラスの港で包囲された。
シンゴルは生存者を出来る限り集めてネルドレスとレギオンの砦に引き揚げさせ、メリアンが防衛のためにシンゴルの王国エグラドールの周りに魔法帯をめぐらせた。
以降、エグラドールはドリアスと呼ばれるようになった。
オッシリアンドのナンドール・エルフたちはデネソールの死を悼んで再び王を戴くことをせず、隠れ潜んで戦いに赴くこともしなくなり、ライクウェンディ(緑のエルフ)と呼ばれる民になった。
だが守りの堅固なドリアスに逃れ、シンゴルの民(シンダール)に合流した者も多く、その多くはアルソーリエンに住み着いた。
4997ヴァラール年 フェアノールに率いられたノルドールがヘルカラクセ(別名「軋む氷の海峡」とも言われ、数多の氷山がひしめきぶつかり合う恐ろしい海)に到着する。
しかしヘルカラクセを横断して一度に中つ国に向かうには船の数が少なく、かといって船を使わずにヘルカラクセを横断することは無謀にすぎた。
さらに時間が経つにつれ、ノルドールの中からフェアノールに対する不満が上がるようになる。
そこでフェアノールは、自らに忠実な者だけを先に船に乗せて船出し、フィンゴルフィン達を置き去りにする。
中つ国のランモスに上陸したフェアノールは、船を返すことをせずに燃やしてしまった。
フィンゴルフィンは船が燃える赤々とした光を見て兄が自分を裏切ったことを知った。
このノルドール同士の裏切りが、同族殺害と、ノルドール族に背負わされた運命から生じた最初の果実であった。
4997ヴァラール年 ダゴール=ヌイン=ギリアス(星々の下の合戦、ベレリアンド第二の合戦)が起こる。
この戦の時には、まだ月が昇天していなかったためにこう呼ばれた。
フェアノールと彼の息子たちの一党は中つ国に到着し、ミスリム湖の北岸まで来て野営した。
しかし焼かれた船の燃えさかる明かりを見て警戒していたモルゴスの軍勢が、まだ設営の十分に整っていないフェアノールの陣地を急襲し、星空の下のミスリムの野で合戦が行われた。
フェアノールらノルドール側は数に劣り、不意をつかれたにも関わらず速やかに勝利を収め、モルゴス軍はエレド・ウェスリンを越えて敗走し、北のアルド=ガレンの大平原まで追撃されていった。
この時、ベレリアンド最初の合戦でファラスの港のキーアダンを包囲していたモルゴス軍が援軍として差し向けられたが、ケレゴルムがこの動きを察知し、待ち伏せてエイセル・シリオンに近い丘陵から奇襲をかけ、セレヒの沼沢地に追い込んで壊滅させた。
合戦は十日間に及び、モルゴスの軍勢に甚大な損害を与えたが、フェアノールは憤怒にかられて突出し、アングバンドまで行き着こうとしてドル・ダイデロスの境界で包囲され、バルログの首領ゴスモグに襲われて致命傷を負った。
そして、追いついた息子たちによって救出された後、ミスリムに引き揚げる途中のエイセル・シリオンに近いエレド・ウェスリンの山腹で、モルゴスの名を三度罵り、息子たちに誓言の死守と父の仇を討つことを託して死んだ。
彼の魂は火のように燃え、自らの肉体を灰にして飛び去ったという。
4997ヴァラール年 フェアノールが死んだ直後、モルゴスの使者が来て偽りの休戦交渉を持ちかけ、シルマリルの一つを引き渡してもよいと言ってきた。
マイズロスは弟たちを説得し、十分に警戒して交渉の場に赴いたが、モルゴス側の使者にはバルログまでおり、マイズロスは生きたまま人質としてアングバンドに捕らえられた。
4998ヴァラール年 モルゴスはフェアノールの息子たちに戦いを放棄してベレリアンドを去るよう要求した。
しかしマイズロスの弟たちは自分たちがどのように行動しようとモルゴスがマイズロスを釈放することはなく、また誓言に縛られている以上戦いを放棄することも出来ないことを知っていた。
そこでモルゴスは、マイズロスをサンゴロドリムの絶壁から右手に枷を嵌めて吊り下げた。
他のフェアノールの息子たちは引き上げてヒスルムに野営した。
5000ヴァラール年 月が初めて世界に上る。初めて昇った月に全世界が驚嘆していた頃、フィンゴルフィンの一党が艱難辛苦の末にヘルカラクセを渡って進軍してきた。
月の出現は中つ国にあるエルダールにとっては大きな喜びとなり、ヤヴァンナが眠らせていた中つ国の生き物たちも眠りから覚めた。
だがモルゴスとその配下にとっては大きな恐怖となる驚異だった。
モルゴスは月の舵を取るマイア、ティリオンに、影の精たちを差し向けたが撃退された。
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