第一紀 マイズロス連合とニアナイス・アルノイディアド -ロードオブザリング全史-

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ロードオブザリング
Nirnaeth Arnoediad - Tolkien Gatewayより引用

468年 マイズロス連合の結成。ベレンとルーシエンの功業に勇気づけられたマイズロスはモルゴスが必ずしも難攻不落ではないことを知って希望を取り直す。

そこでマイズロスの連合と呼ばれる提唱を行い、モルゴスに敵対するすべての勢力を糾合してアングバンド攻略の連合軍を形成しようとした。

フェアノールの息子たちと上級王フィンゴンを筆頭に、エルダール諸侯に仕えるエダインおよび東夷の諸族、青の山脈のドワーフがこれに参加した。

 

しかしナルゴスロンドのオロドレスはケレゴルムとクルフィンの件で、出兵を断った。

ナルゴスロンドはモルゴスに名前しか知られていなかったため、秘密を守って隠密行動を取ってさえいれば、ナルゴスロンドを防衛し得ると確信していた。

そのためナルゴスロンドからはグウィンドールという武勇の誉れ高い公子に従ったごく僅かな者しか参加しなかった。

彼がオロドレスの意向に背いたのは、ダゴール・ブラゴルラハで兄ゲルミアを失っていたからである。

また、ドリアスからは殆ど助けは来なかった。提唱前にフェアノールの息子たちは誓言故に、シルマリルの引き渡しをシンゴル王に要求していたからである。

それにケレゴルムとクルフィンがルーシエンに対して働いた無礼も忘れてはいなかった。その怒りで胸が煮えたぎる思いをしていたシンゴルは、要求も提唱も皆撥ね付けた。

メリアンはシルマリルを引き渡した方がいいと忠告したのだが、シルマリルの輝きを眺めれば眺めるほど、これをいつまでも手許に置いておきたいと気持ちが、シンゴルに生じていたのである。

 

マイズロスはこのシンゴルの対応に何も言わなかったが、ケレゴルムとクルフィンは自分たちが勝利を占めた暁には、シンゴルもその民も皆殺しにしてやると公言した。

その中でシンゴルの配下で武勇で名高いマブルングとベレグだけは、この提唱に応じた。戦人である彼らは戦場に出ないのを良しとしなかったため、シンゴルはフェアノールの息子たちには仕えないという条件付きで、二人の出陣を許可した。

また、マイズロスに臣従する東夷のウルファングの一族は、既にモルゴスに誘惑されてその間者となっていた。

 

469年 不完全ながら全ベレリアンドの賛同を得たマイズロス連合は力試しを急ぎ、各地で一斉に蜂起してモルゴスの軍勢を北方から一掃。ドルソニオンも敵の手から解放された。

今やエルフ達が決起したという警告を受けたモルゴスは、対抗するため謀を練った。彼は多くの間者や謀反の用意がある工作員達をフェアノールの息子たちの内部に送り込んでいたため、それを使うこととした。

 

469年 ベレンとルーシエンが蘇る。二人はドリアスを訪れた後、トル・ガレンに去り、それゆえその地は「生ける死者の国」を意味するドル・フィアン=イ=グイナールと呼ばれるようになった。

 

469年 秋、悪しき吐息の病が北方で流行る。年が終わる前にはトゥーリンが病に伏せ、トゥーリンの妹のラライスは病死する。

ラライスの本来の名はウアウェンであるが、非常に愛らしく、彼女の笑い声はフーリンの屋敷の近くを流れるネン・ラライスのせせらぎのようであったことからラライスと呼ばれていた。

フーリンからはエルフの子供のようだと言われ、トゥーリンは誰よりも彼女を慈しんでいたが、3歳の時に悪しき吐息で病死し、家族を大いに悲しませた。

後にトゥーリンは全ての女性にラライスの面影を求めたという。

 

470年 ベレンとルーシエンの間にディオルが誕生する。

 

472年 フオルとリーアンが結婚する。フオルはその二か月後に出陣。フオルはリーアンが身籠っていた子供にトゥオルという名を選んでから戦場に赴いた。

 

472年 夏至、ニアナイス・アルノイディアド(涙尽きざる合戦(Battle of Unnumbered Tears)、べレリアンド第五の合戦)が始まる。

糾合しうるかぎりの戦力を集め終えたマイズロスは、夏至の日に東からマイズロスの軍勢が、西からフィンゴンの軍勢がアングバンドを挟撃することに決めた。

決起の合図はドルソニオンの大狼煙であった。夏至の日の朝トランペットが吹き鳴らされ、東西にそれぞれの旗印が掲げられた。

上級王フィンゴンの許にはヒスルムの全ノルドールに、ナルゴスロンドのグウィンドール麾下のノルドール、そしてファラスのエルフに、ドル=ローミンの人間の大部隊がいた。

その中には剛勇を誇るフーリンとフオル兄弟がおり、ブレシルからはハルディアが一族の多くを率いて来ていた。

フィンゴンはサンゴロドリムの方を見やると、黒雲に包まれ、黒煙が立ち上っていることで、この挑戦をモルゴスが受ける気でいることがわかった。

 

計画ではマイズロスが正面からアンファウグリスに兵を進めてモルゴス軍をおびき出し、その後ドルソニオンの大狼煙を合図にフィンゴンがヒスルムの山道から撃って出ることになっていた。

しかしマイズロスは東夷のウルドールから、アングバンドから軍が襲撃してくるという偽報を受けたため、出陣が遅延していた。

ところがこの時、不意に歓声が西で沸き起こった。何と意外なことにフィンゴン王の弟トゥアゴン王がゴンドリンから1万の兵を率いて出陣してきたのである。

フィンゴンの士気は否が応にも高まり声高く叫び、彼の大音声は山々に木霊した。

しかし、挟撃の計画をあらかじめ知っていたモルゴスは、実際よりも大軍に偽装した軍勢をフィンゴンの軍勢を挑発するために送り出した。

この時士気が高まっていたノルドール族は、これをアンファウグリスにて迎え撃とうとしたが、モルゴスの姦計を用心したフーリンが異を唱えた。

しかしアングバンドのヒスルム方面軍指揮官はどんな手段をとってでも、フィンゴンの軍勢を誘い出すよう厳命されていた。

そのためモルゴス軍はヒスルム軍の直ぐ目の前までやって来て彼らを挑発した。しかしフィンゴン側は挑発に乗らず無視したため、オーク達の嘲りの声も段々下火になってきた。

そこで指揮官は数人の使者と共に一人のエルフの捕虜を送り出した。彼はナルゴスロンドの貴族ゲルミアで、拷問で盲目にされていた。

アングバンドの使者は「こういった捕虜たちが幾らでもアングバンドにはいる。助けたかったら早くしないとこうなるぞ」と告げてゲルミアを手足を順に切断し最後に首を切り落として去った。

折悪しく、その場にはゲルミアの弟グウィンドールがいた。兄の死に様を見せつけられた彼は狂気の如き怒りに駆られ、馬に飛び乗ると走り出た。

他にも多くの騎手が続き、彼らは使者たちを皆殺しにし、さらに敵陣深く斬り込んでいってしまった。

これを見て他のノルドールの軍勢も否応なく出撃し、フィンゴンも白き兜をかぶると、トランペットを鳴らさせた。

ヒスルム軍は一斉に踊り出て猛攻撃を開始した。その攻撃の凄まじさたるや、アングバンドの西方軍は援軍の到着を待たずしてたちまち全滅させられた。

 

フィンゴンの軍勢はグウィンドール麾下のナルゴスロンドのエルフ達を先頭に、アンファウグリスを通過するとアングバンドの大門前にたどり着き、そこを守る守備兵を壊滅させると門扉を激しく叩いた。モルゴスはこの音を聞き地の底深い己の玉座で震え慄いたという。

しかしここでフィンゴン軍は罠にはめられた。サンゴロドリムに数多くある秘密の入口から、モルゴスが主力部隊を出撃させ、不意に打って出たのである。

ナルゴスロンドのエルフ達はグウィンドールを除いて皆殺しにされ、彼は生きながら捕らえられた。フィンゴンは敵主力部隊との戦いのため彼を助けることが出来なかった。

そして無数の死傷者を出してフィンゴン軍はアングバンドの城門から撃退された。フィンゴンの軍勢は退却戦に移り、殿をつとめたハルディアとブレシルの男たちの大半が討ち死にを遂げた。

 

五日目に入って、オーク達はヒスルム軍を包囲し次第に追い詰めた。しかし朝になるとともに、ゴンドリンの主力部隊を率いてトゥアゴン王が救援にやって来た。

彼らは南方に配置されていたことと、早まった攻撃に出ないよう用心していたのである。ゴンドリン軍はオーク達の包囲を突破しトゥアゴンは兄フィンゴンの許へ辿り着いた。

その場にはフーリンもいた。彼らの再会は激戦の最中とはいえ、喜ばしいものであった。こうしてエルフ達の士気も再び高まった。

 

同じ時、ようやく東からマイズロスの軍勢が進軍してきた。彼らはアングバンド軍の後方を襲った。この時全軍が忠実であったなら、エルダールは勝利を収めることもできたかもしれなかった。アングバンド軍は浮足立ち、逃走する者も出始めていたからである。

しかし、ここぞとばかりにモルゴスは最後の戦力を解き放った。狼や狼乗り、バルログたち、竜たちとその祖グラウルングが来襲したのである。この恐るべき軍勢はマイズロスとフィンゴンの間に割って入り、両軍の合流を妨げた。

 

また、この合戦で、モルゴス軍にとって何よりも大きな力を発揮したのは裏切りであった。腹黒いウルファングがモルゴスと通じていたのが露見したのはこの時だった。

東夷たちの多くは嘘偽りと不安に耐えられず逃げ出したが、ウルファングの息子たちはモルゴス側に加担してフェアノールの息子たちに突然襲いかかった。

そしてこの混乱に乗じて自分たちはマイズロスの軍旗へと迫った。しかしその一方、もう一つの主要な東夷の部族であるボールの一族は、エルフ諸侯への忠誠を貫き、ウルファングの息子たちを迎え撃った。

結果裏切りを指導した呪わしきウルドールはマグロールの手で殺され、ウルファストとウルワルスはボールの息子たちが討ち果たした。

 

しかしウルドールが前もって東国から集めておいた凶悪な人間達の伏兵が新手として攻め寄せてきた。

三方から挟撃にあったマイズロスの軍勢は総崩れとなり、ボールの息子たちのボルラド・ボルラハ・ボルサンドは全員が討ち死にを遂げた。

フェアノールの息子たちはノルドールとドワーフの生存者を周りにかき集め、血路を開きながらかろうじて東のドルメド山に向けて逃れた。

 

東軍の殿を務めたのはベレゴストのドワーフたちであった。彼らドワーフ族はエルフや人間よりも火熱に耐えられ、また戦場では大きな恐ろしい面を被る習慣があり、これらが役立って彼らは竜たちに猛然と立ち向かったのである。

もし彼らがいなければグラウルングとその眷属たちによって、ノルドールの生存者は皆焼かれて死んでいたかもしれない。

ドワーフ達はグラウルングを取り囲むと大鉞で斬りつけた。この重い一撃には、グラウルングの堅固な鱗も完璧な防御とは言えなかった。

このため猛り狂ったグラウルングは、ドワーフ王アザガールに突進し、これを押し倒しその上に這い登った。

その時アザガールは今際の際に、最後の力を振り絞って、グラウルングの柔い腹部に短剣を深く突き刺した。この深手にグラウルングはたまらずアングバンドに一目散に逃げ帰った。

 

片や西の戦場では、フィンゴンとトゥアゴンの兄弟が味方の軍勢の3倍以上もの敵兵相手に、波状攻撃を受けていた。

そこへバルログの王ゴスモグが軍勢を雪崩込ませたことでフィンゴンは孤立し、トゥアゴンとフーリンたちはセレヒの沢地の方へと押しやられた。

近衛兵達の亡骸に囲まれて、フィンゴンはただ一人勇敢にゴスモグと戦っていたが、別のバルログが彼の背後に回り込み、火の鞭を彼に巻きつけた。

そこへゴスモグの黒い鉞が脳天に振り下ろされ、フィンゴンの兜は割れ、ノルドールの上級王は討ち死にを遂げた。

灰土に横たわった王の遺骸を、敵は矛で散々に打ちのめし、彼の王旗は血溜まりの中で踏みにじられた。

 

フーリンとフオル兄弟とハドルの一族の戦士たちは、トゥアゴンを囲んで何とか踏みとどまっていた。

そしてモルゴスの軍勢はシリオンの山道は抑えることがまだできないでいた。そこでフーリンはトゥアゴンに撤退してくれるよう懇願した。

トゥアゴンはゴンドリンも発見されて滅ぼされるに違いないと、半ば捨て鉢になっていたが、フオルがゴンドリンは最後の望みであり、そこからエルフと人間の望みが生まれること、フオルとトゥアゴンの間から新しい星が生じることを、死を前にした予見で告げた。

この予言は、後にリーアンが身籠もっていたフオルの息子トゥオルが、トゥアゴンの娘イドリルと結ばれてエアレンディルが生まれることにより、現実のものとなる。

トゥアゴンはそこで二人の忠告を受け入れ、ゴンドリン軍の生存者全てと、兄フィンゴンの臣下で集められるだけのものを集めると退却を始めた。

彼の大将である泉のエクセリオンと金華家のグロールフィンデルが左右を警護してゴンドリンへと向かっていった。

そしてドル=ローミンの人間たちとフーリン・フオルは殿を守って敵を寄せ付けなかった。このためトゥアゴンは無事にゴンドリンへ退却することが出来た。

 

しかし残された者達は、敵軍に包囲され次々と死んでいった。フオルも6日目の夕方頃に毒矢で目を射抜かれて討ち死にした。

ハドル家の勇敢な男たちはみな殺され、屍の山となった。フーリンただ一人が最後まで生き残り、両手で斧を振るってゴスモグを護衛するトロル達を屠っていった。

彼は一人屠る度に自らを鼓舞する声を上げ、それは70回にも及んだという。しかしついに彼は生きながら捕らえられた。ゴスモグは彼を縛り上げ、笑いものにしながらアングバンドまで引きずっていった。

 

モルゴスの命で、オーク共は戦死者達の骸や彼らの武器武具を尽く集めて、アンファウグリスの真ん中に積み上げて大きな塚山を作った。

これは小山のようで遥か遠くからも眺めることが出来た。エルフ達はこれをハウズ=エン=ヌギンデンと名付けた。<戦死者の丘>の意である。またはハウズ=エン=ニアナイスとも呼んだ。こちらは<涙の丘>の意である。

しかし灰土に覆われ何も育たないアンファウグリスの中で、やがてこの丘には草が萌え出て、ここだけは緑の草が再び青々と伸びて生い茂ったのであった。そしてこの地を好んで踏もうとするモルゴスの配下は誰もいなかった。

 

かくして第五の合戦、ニアナイス・アルノイディアドは終わった。この戦いの年は後に嘆きの年と呼ばれるようになった。

モルゴスの勝利は大きかった。軍事的にはもちろん、人間が人間の命を奪い、エルダールを裏切る者も出たからである。

このため団結して対抗しなければならない筈の者達の間に恐怖と憎しみが起きてしまった。この時からエルフ達の心は、エダイン三王家を除いた人間たちから遠ざかってしまったのである。

 

フィンゴンの王国は滅亡し、フェアノールの息子たちはオッシリアンドのエルフのもとに身を寄せ、古の勢威も栄光もない、荒々しい森の暮らしをする羽目になった。

ブレシルは大量の戦死者を出したものの、ハルディアの息子ハンディアが族長となり、ごく一部が森に守られて暮らしていた。

しかしヒスルムには一人もフィンゴンの兵は戻らず、ハドル家の男たちも戻らなかった。

 

モルゴスは彼のために働いた東夷をヒスルムに送り込んだ。彼らは肥沃なベレリアンドの地を望んだのだが、モルゴスは無視した。

彼はヒスルムに東夷を閉じ込めそこを離れることを禁じた。これが彼らの裏切り行為への報奨であった。ヒスルムに残っていたエルダールは北方の鉱山に連れて行かれ、奴隷とされた。

オークと狼たちは今や北の地だけでなく、南にまで下ってきてベレリアンドにも侵入し、オッシリアンドの国境にも入り込むようになったため、安全な場所はもう殆ど無かった。

ドリアスとナルゴスロンドは持ちこたえていたが、モルゴスはこれらには殆ど注意を向けなくなっていた。

多くのエルフはファラスの港に遁れキーアダンの許へ避難した。そしてエルフは水軍を編成し敏速な上陸・撤収を繰り返して、敵を攻撃し悩ませた。

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