第一紀 トゥーリンのドリアス時代 -ロードオブザリング全史-

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ロードオブザリング
Thingol - Tolkien Gatewayより引用

472年 モルゴスは逃したトゥアゴンを滅ぼしたいと願う。トゥアゴンはフィンゴルフィン王家の者であり、フィンゴン亡き今は、彼が全ノルドールの上級王になったからである。

そこでモルゴスはニアナイス・アルノイディアドで捉えたフーリンを前に連れてこさせた。彼がトゥアゴンと親しいことを間者を通じて知っていたからである。

最初モルゴスはその凝視によって彼を威圧しようと試みたが、彼はこれに屈せず、むしろ反抗してみせた。そこでモルゴスは鎖による拷問を試みた後、二つの選択肢を示した。

ここより解放され自由の身となるか、モルゴス軍の指揮官となりその地位と権力を享受するか。但し引き換えにゴンドリンの所在を白状せよ、と。それにフーリンは罵りで応じた。

 

次にヒスルムにいる妻子縁者のことを持ちだして脅してみたが、これにもフーリンは屈しなかった。とうとうモルゴスは怒り、フーリン一家に災いと絶望と死、そして何処へ行っても破滅を齎すという呪いを吐きかけた。

対してフーリンは、嘘吐きのお前にそんな力などないと、歯牙にもかけず嘲った。そのため彼はサンゴロドリムの高みにある石の椅子に座らされると、モルゴスの魔力で金縛りとなり、再度呪いの言葉を吐きかけられ、そしてモルゴスの歪んだ眼と耳で持って、妻子と一族の行く末を否応なく見せつけられることになるのであった。

 

472年 トゥオルが生まれる。フオルの妻リーアンはニアナイス・アルノイディアドで夫フオルの消息が途絶えると、身重の体で夫の行方を追って荒野をさ迷った末、アンナイルを始めとするミスリムの灰色エルフたちに助けられた。

リーアンはトゥオルを産むと彼の養育をエルフ達に委ね、自らはフオルの眠るハウズ=エン=ヌデンギンに赴き、そこに身を横たえて死んだ。

 

472年 トゥーリンがドリアスへ向かう。ニアナイス・アルノイディアドの戦で父フーリンが消息を絶ち、ドル=ローミンが入植してきた東夷の脅威にさらされたため、トゥーリンは母モルウェンによってドリアスへ送り出された。

 

473年 モルウェンがニエノールを生む。トゥーリンの妹だがニエノールが生まれた時、トゥーリンはドリアスへ向かい去った後だった。

 

473年 トゥーリンたちはドリアスの国境の森までたどり着いたものの、魔法帯の力に阻まれてさ迷い、力尽きかけていた時にベレグと出会ってメネグロスに案内された。

シンゴルは、ニアナイス・アルノイディアドで奮戦したフーリンに敬意を表してトゥーリンを自らの養子とした。

そしてトゥーリンの下僕の一人がドル=ローミンの奥方に、このことを伝えるためにと出立すると、シンゴルはエルフの護衛を付けてやった。彼らは無事にモルウェンのもとに到着し、トゥーリンのことを伝えた。

この時エルフ達は女王メリアンの招きを伝えて、モルウェンにもドリアスへ来るよう促したのだが、彼女は自尊心とニエノールのことからこれを丁重に拒み、使者のエルフ達が帰還する時、ハドル家の重代の宝器の中でも最も貴重なものである、ドル=ローミンの竜の兜を託した。

 

ドル=ローミンの竜の兜はノグロドのドワーフの鍛冶テルハールによって作られた兜。

ベレンがモルゴスの鉄の冠からシルマリルを切り取ったアングリストや後にイシルドゥアがサウロンの手から指輪を失わせることになるナルシルもテルハールの作である。

ドル=ローミンの竜の兜は龍のグラウルングが初めて出現した頃に鍛えられた物で、金で飾られた灰色の鋼でできており、着用者の顔面を守り、かつその顔を恐ろしげに見せる面頬を備えた。

前立てにはグラウルングの頭を模した金の飾りが挑戦するかのように据えられていた。勝利のルーン文字が刻まれており、誰であれこれを帯びる者に振り下ろされる刃や飛び来る矢を弾き返し、負傷や死から守る力があった。

元々この兜は、ベレグオストの王アザガールの為に作られたものだが、東ベレリアンドのドワーフ道でオークに襲われたアザガールを救出したマイズロスに、アザガールから謝礼として贈られた。

その後、マイズロスはフィンゴンがグラウルングを撃退した勲功を想起してフィンゴンにこの兜を贈り、更にフィンゴンからハドルに彼がドル=ローミンの統治権を得た際に与えられ、ハドル家の家宝となった。

 

トゥーリンはドリアスでの少年時代を、ネルラスという名のエルフ乙女とよく過ごした。彼女からドリアスについてトゥーリンは多くのことを学び、またシンダール語も彼女から学んだ。

この頃はトゥーリンにとって明るい一時であった。しかしトゥーリンが少年から青年になると、ネルラスと会うことは次第に少なくなっていった。

9年の間トゥーリンはメネグロスで過ごした。彼の親族の消息は使者を通じて度々齎され、妹ニエノールが美しく成長していることや、それがモルウェンの心痛を和らげていることを伝え聞いたのである。

そしてトゥーリンは人間の中で最も丈高く成長し、その膂力と勇気は国内に知れ渡るようになった。彼はベレグに弓矢の技に森の知識、そして剣術を学んだ。

 

このように彼をよく知るものからは愛情・友情を得たが、彼自身は陽気な性質ではなく、滅多に笑うこともない陰気な所があったので、友人は多くはなかった。

特に彼を嫌う者の中にサイロスという名のエルフがいた。彼はベレリアンド最初の合戦でデネソールに仕えていたものである。デネソールの死後、彼はオッシリアンドではなくドリアスに避難してきたのであった。

彼はトゥーリンに巧みに悪意を隠して嫌味を言ったり、侮蔑の言葉を投げかけた。トゥーリンはこれに終始沈黙を持って答えたが、これがさらにサイロスの癇に障った。

 

473年 モルゴスがベレリアンドへの攻撃を再開する。モルゴスはヒスルムとネヴラストを超えて大軍を送り、ファラス地方を荒らしまわった。

そしてブリソンバールとエグラレストの2つの港は包囲され、敵に多大な損害を与えたがついには陥落した。キーアダンの民の大半は殺され、奴隷にされた。

しかしキーアダンやフィンゴンの息子ギル=ガラド、その他少数の者は船で海に遁れ、バラール島に避難場所を作り上げた。また彼らはシリオンの河口リスガルズの地にも港を建設した。

 

ファラスの惨状を聞いたトゥアゴンは再びアマンへの使者をシリオンの河口に送る。後に使者たちはキーアダンの作った計七隻の船で船出する。

しかし七年の間大海を彷徨った末、諦めて中つ国へ引き返したが、ネヴラストの沖合いに近づいた時、オッセがマンドスの宣告に従って起こした嵐によって沈められてしまった。

その中でヴォロンウェはウルモによって救われたため唯一の生存者となり、ヴィンヤマールに近い陸地に打ち上げられた。

そこでウルモの計らい通りトゥオルと出会い、トゥオルをゴンドリンへと導くことになる。

 

481年 トゥーリンがドル=ローミンに送っていた使者が戻ってこなくなる。今やモルゴスの覆う影はヒスルム全土にまで達していたためである。

トゥーリンは家族のことを思うと思い悩んだ。彼はシンゴル王の前に参じると剣と鎧、そしてドル=ローミンの竜の兜を賜るよう願い出た。

それは叶えられたが、彼が冥王を撃とうとしていることを知ると、シンゴル夫妻は忠告してそれを諌めた。

そこで彼は忠言に従い北の国境へ出向き、エルフ部隊に合流し、オークや他のモルゴスの召使いたちと戦うようになった。

彼は常に先陣を切って敵を屠った。その大胆さからドル=ローミンの竜の兜の再来がドリアス以外の国々でも囁かれるようになった。

この頃戦士としてトゥーリンが敵わなかったのは、彼の師であるベレグ・クーサリオンただ一人であった。二人は戦友となって共に戦った。

 

484年 トゥーリンは戦いに疲れて、休息を取ろうとメネグロスに帰ってきた。しかし荒野から戻ってきたばかりの彼は髪は茫々武具も衣服もくたびれ果てていた。

そんな彼が食卓についたところをサイロスが嘲って「ヒスルムの男たちがこんなにも野蛮で荒々しいのなら、女達は髪の毛以外身を覆うものもなく走り回っているに違いない」と侮蔑の言葉を投げかけた。

これにはトゥーリンも激怒し、杯を取るやサイロスの顔面に投げつけた。彼はひどい傷を負い、ひっくり返った。そこへトゥーリンは剣を抜いて迫ったが、これはマブルングによって阻止された。

 

翌日トゥーリンが国境警備隊に戻ろうとしていたところを、剣と盾で武装したサイロスが待ち伏せしており、背後から襲いかかった。

しかし百戦錬磨の戦士となっていたトゥーリンはこれを躱すと、素早く剣を抜き、打ちかかった。

そしてサイロスの盾を砕き、剣を持つ手を傷つけて、彼を無力化した。その上で昨日の侮蔑のお返しにサイロスの衣を剥ぎ取り、身を覆うのは髪の毛だけにすると、剣でもって追い回した。

サイロスは狂ったように悲鳴を上げながら逃げまわったため、他のエルフ達も何事かと集まってきたが、二人はすごい速さで駆け抜けていったため、ついていける者は殆どおらず、追いかけられたのはマブルング他数名であった。

 

彼は追いかけながら、必至にトゥーリンに思いとどまるよう説得したが、トゥーリンはそれを無視した。

そしてサイロスはエスガルドゥインの川まで追い詰められ、恐怖のあまり跳躍を試みたものの、対岸への着地には失敗し、悲鳴とともに落ちていき、水中の大岩に当たって砕けて死んだ。

その結果を見届けたトゥーリンが振り返ると、そこにはマブルング他何名かのエルフ達がやって来ていた。

彼はトゥーリンにメネグロスに戻り、王の裁きを待つよう伝えた。しかしトゥーリンはこれを断った。サイロスは王の助言者の一人であったからである。

マブルングは心中トゥーリンに同情していたため、友として戻るよう勧めた。しかしそれでも囚人となるのを恐れたトゥーリンは断り、立ち去った。

もしトゥーリンを生きたまま捕らえようとするなら、マブルング側にも犠牲者が出るのは避けられない。そしてトゥーリンは逃亡し無法者となったのである。

 

その頃ドリアスではトゥーリンに対して裁断が下されようとしていた。シンゴル王はサイロスも嘲笑の言葉を投げかけたりと非はあるが、死に至らしめる程の罪には見合わないと考え、トゥーリンが王に赦しを請わず国を出て行ったことを聞き、養子縁組を取り消すとまで発言した。

だがそこへベレグがネルラスを連れて来て、彼女が王に彼女の見たこと、即ちサイロスがトゥーリンに不意打ちを仕掛けたことを言上した。これにより審判の場は一変し、皆がトゥーリンに同情的になった。

そして王はトゥーリンの過失を赦し、再び王宮に迎え入れることを許可した。しかしネルラスは泣き出し、彼は見つかるだろうかと嘆いた。

王もなにか良い手立てはないものかと思案に暮れていたところを、ベレグが王に対して、自分がトゥーリンを必ず探し出して連れてくると応え、一人出立した。

 

その頃トゥーリンは自らを王に追われる無法者になったと信じこみ、西を目指してドリアスを抜けると、テイグリン南部の森に入った。

ニアナイス・アルノイディアド以前には、ハレスの一族が点在して生活していた場所である。だが今では彼らの多くは死に絶え、生存者はブレシルへと落ち延びていた。

そしてニアナイス・アルノイディアド以降は荒廃した時代となったため、付近一帯はオークと無法者が跳梁跋扈していた。

敗残兵に罪人、荒廃した土地を捨ててきた人々、追放者、これらは略奪を繰り返す無法者と化していた。彼らはガウアワイス(狼人)呼ばれ忌み嫌われていた。

 

その中の50人ほどは徒党を組み、オークに劣らぬほど嫌われていた。その悪名高い一党にトゥーリンは出会うこととなった。

彼らは通行料を要求し、払えないなら死んでもらうと脅してきたが、トゥーリンはそのうちの一人を即座に殺してみせることで、後釜に入った。

そして本名は明かさずネイサンと名乗った。程なく彼は一目置かれるようになった。剣の腕が立ち、森の知識も豊富で、欲が薄く、自分の取り分を殆ど要求しなかったからである。

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