第一紀 トゥーリンのガウアワイス時代 -ロードオブザリング全史-

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ロードオブザリング
Beleg - Tolkien Gatewayより引用

485年 トゥーリンとベレグがいなくなったことでドリアス周辺のオークの活動が活発化し、アナハの山道からは新手のオークが来る。

 

485年 トゥーリンは無法者の非道な行為を見て見ぬふりをする時、憐憫の情や羞恥心から怒りの感情が頭をもたげた。

そんな折、散歩に出ていたトゥーリンはたまたま森の民の若い娘を襲おうとしていた首領フォルウェグを斬り捨ててしまう。そこを無法者の一員アンドローグに見られてしまうが、彼の命は助けた。

この結果ガウアワイス内で揉めたものの、前首領に不平が溜まっていたこともあって、トゥーリンを新しい首領とすることに決まった。そして彼らはその地方を離れた。

 

ドリアスからは幾人もの探索者が放たれ、トゥーリンが出奔した都市に探索に当たったが、探索は失敗に終わり、ベレグのみがひとり孤独な探索を続けた。そしてトゥーリンに助けられた森の民の娘からついに足がかりを得た。

ベレグは追跡を開始したが、トゥーリンは移動の際ほとんど手がかりを残さぬよう、水際立った術を用いて妨げたので、ベレグですら彼らの探索には手を焼いた。

痕跡を見つけ、野生の生き物から聞き出した情報からその場へ行ってみると、既にもぬけの殻となっていた。

 

それから程なく、トゥーリンはガウアワイスの仲間であるオルレグと共に偵察に出た時、オークに発見された。

オルレグは途中で多量の矢を浴びて死んだが、俊足とエルフの鎧を身に纏っていたトゥーリンは無事逃げ果せた。

三日間たっても首領とオルレグが戻らないことから、無法者たちは出立を促したが特に警戒心が強かったアンドローグがこれを制していた。

そんな時彼らの前に一人のエルフが不意に姿を表した。ベレグであった。彼は何の武器も持たず、敵意のないことを示すため掌を彼らの方に向けていた。

しかし無法者たちは恐怖し、アンドローグの打った輪縄がベレグの両腕を絡めとった。ベレグは友として参った自分になぜこんな仕打ちをするのかと、ネイサンの名を呼んだが、ウルラドという名の無法者が彼は今は此処にはいないことを告げた。

そしてアンドローグが、長らく自分たちを付け回していたのがベレグであると確信すると、彼を木に縛り付けた。

 

彼は詰問したがベレグは、自分はネイサンと名乗る男の友人で、彼に吉報を携えてきたとしか答えなかった。

アンドローグは彼を殺そうとしたが、多少は心根の良い者たちが反対し、アルグンドは、もし首領が戻ってきた時に友人と吉報を奪われたと知ったら、自分たちは後悔することになると言って制止した。だがアンドローグはベレグをドリアス王の間者に違いないと決め付けた。

それから二日間が経過すると流石に男たちも痺れを切らし、エルフを殺そうとした。その時丁度トゥーリンが帰ってきたのである。

彼はベレグを見ると衝撃を受け、涙をはらはらと流しながら駆け寄った。そして友を縛っている縄目を断ち切ると、ベレグを抱きかかえた。

無法者仲間から事の次第を聞いて、自分の行ってきた無法無道な行為に自責の念が芽生え、今後トゥーリンは人間とエルフ以外しか襲わないと誓った。

 

そこに縛めから解かれたベレグが、サイロスの一件は不問となったことを告げ、ドリアスに戻ってくれるよう頼むが、彼は黙りこんでしまった。

翌朝もう一度ベレグはドリアスに戻るよう説得したが、トゥーリンは自尊心からドリアスへの帰還を拒んだ。

それに無法者仲間に対しても愛情があることから、今更彼らを見捨てるわけにも行かないと告げ、トゥーリンは自由にやってゆきたいと、自身の手勢を従えて戦うことを決意する。

そしてベレグに残ってくれるよう懇願するが、ベレグはそれは出来ないと答え、今やオーク達はディンバールにもやって来て、ブレシルの人間も難儀しているから、自分はそこへ戻るつもりだと言う。

そこで自分に会いたければディンバールに来て自分を探せと伝える。トゥーリンはベレグに、自分に会いたければアモン・ルーズに来て自分を探せと伝え、二人は友情を懐きながらも悲しい気持ちで別れた。

 

ベレグはメネグロスに戻ると、シンゴル夫妻に事の顛末を全て言上した。その後ベレグは、シンゴルに暇乞いをして聞き入れられた。

餞別にシンゴルからはアングラヘルの剣を、メリアンからはレンバスを授けられ、ドル=ローミンの龍の兜を携えて、北のディンバールへ戻っていった。

トゥーリンはより安全な巣窟を探さねばならないと痛感し、シリオンの谷間を抜けて西へと向かった。そんな中雨宿りをしている時、3つの人影を目撃する。

大声で止まるよう命じたが、人影はそれに従わず逃げようとしたため、アンドローグが矢を射かけた。2つの人影はそのまま逃げたが、1つは逃げ遅れトゥーリン達に捕まった。

それは小ドワーフで名をミームといった。ミームは命乞いをし、身代金の代わりに、誰にも見つからぬ隠れ家を共にしてもよいと申し出たため、トゥーリンはそれを受け入れた。

翌日彼らはミームに続いてアモン・ルーズへ向かった。ミームは秘密の入口に着くと、一行をバル=エン=ダンウェズと名付けた洞窟の中へと案内した。

ここでミームは自分の息子キームが死んだことをもう一人の息子イブンから知らされる。アンドローグの放った矢がキームの命を奪ったのである。

トゥーリンはこれを申し訳なく思い、もしも富が手に入ることでもあれば金塊で息子の命を贖おうと申し出た。

ミームはこれを聞くとトゥーリンを眺め、その旨承ったことと、気持ちが少しは和らいだことを告げた。

だがアンドローグに対しては、再び弓矢を手に取らば弓矢によりて死ぬという呪いをかける。こうしてバル=エン=ダンウェズにおけるトゥーリンの日々が始まる。

 

486年 真冬が近づく頃、未曾有の大雪が北方から齎され、アモン・ルーズも深い雪に覆われた。アングバンドの力が増大するにつれて、ベレリアンドの冬は厳しさが増していると人々の間で噂された。

そんな厳しい寒さの最中、ベレグ・クーサリオンが再びトゥーリンの許へ訪れる。ベレグは彼の竜の兜を携えてきていた。それによってトゥーリンの考えが変わることを期待したからである。

しかしトゥーリンはドリアスに戻ろうとはしなかった。

 

ベレグは彼への愛情に負け、彼もトゥーリンの仲間になることになった。無法者仲間にレンバスを与えることで活力を与え、怪我人や病人も治療した。たちまち彼らは癒やされた。

ベレグは弓の腕前も優れて、力も強く、遠目も効いたので、無法者仲間からも尊敬を受けるようになった。

しかし小ドワーフは過去にベレリアンドのエルフに追い立てられ、殺されたことがあったためミームはベレグを憎んだ。

トゥーリンは再び竜の兜を身につけると自らをゴルソル(恐るべき兜の意)と名乗り、バル=エン=ダンウェズを拠点に戦いを開始した。

オーク達は南方の地域、ベレリアンドに入る道を探っていたが、トゥーリンに率いられたガウアワイス達はそれを襲撃するようになった。

 

竜の兜トゥーリンと強弓ベレグが再起したという噂は遍くに伝えられた。流離人となりつつも、モルゴスに抵抗する意思を持つ多くの者たちが、再び勇気を取り戻しトゥーリンとベレグの許へ集まってきた。

トゥーリン一党は一大勢力に膨れ上がり、アングバンドの影響は後退した。メネグロスやナルゴスロンド、そして隠れ王国ゴンドリンにすら二人の武勇の誉れは響いた。

トゥーリン一党に対しナルゴスロンドからは、その秘密の場所を守るため、軍事的な支援はできないものの、必要な物は何であれ提供しよう、と申し出が来た。

全てが上手く言ってるように見えたが、ベレグは先のことを考えて度々警告した。だがトゥーリンは考えを変えず、ここで力を蓄えた後にドル=ローミンへ向かう旨を告げた。

やがて二人のことはモルゴスの耳にも入り、竜の兜故にフーリンの息子の存在は明らかになってしまった。彼はアモン・ルーズ近辺に間者を大量に放った。

 

488年 アンナイルら灰色エルフがアンドロスの洞窟を捨ててシリオンの港へ向かうが、オークと東夷に襲われる。トゥオルは囚われ、ロルガン(東夷の族長)の奴隷となる。

 

489年 ミームとイブンは冬の蓄えのため、荒れ地に赴いたところをオークに捕らえられ、秘密の入口を案内させられる羽目になった。

こうしてバル=エン=ダンウェズは敵に売られた。ミームの案内で、オーク達は敵が寝静まっているところを襲ったのである。トゥーリンの仲間の多くは寝ているところを襲われ殺された。

アンドローグもそこで勇敢に戦ったがオークの矢で致命傷を負った。しかしトゥーリンは戦闘中に網を被せられ、身動きの取れなくなったところを連れ去られた。

 

当たりに静けさが戻った頃、ミームが姿を現した。そして山頂に斃れた死者たちを見渡したが、一人生存者がいた。ベレグであった。

そこでミームは憎悪の念からベレグを殺そうと、死者の傍らにあったアングラヘルを手に近づいたが、ベレグはよろめきながら立ち上がり、アングラヘルを奪い返すと逆にそれを突きつけた。

ミームは仰天して山頂から逃げ去った。ベレグはミームに対し、ハドル家の復讐が必ずお前にやってくると予言した。

 

ベレグはひどい傷を負っていたが、彼は中つ国のエルフでも力強い者である上、癒やしの術にも長けていたので死ななかった。

回復した彼は埋葬しようとした死者の中にトゥーリンがいないことに気付き、彼がオークたちに連れて行かれたことに気付いたのである。

そこで彼は追跡を開始した。相手の足取りを追う術にかけて彼の右に出るものは、中つ国広しといえども一人もいないほどであった。

彼は眠らずに急行したのに対し、オーク達は勝利に浮かれて北上するにつれ、追跡を恐れなくなっていたため、その足取りは遅かった。

そんな時ベレグは道中タウア=ヌ=フインで一人のエルフを発見する。それはナルゴスロンドのグウィンドールであった。

そこでグウィンドールにレンバスを与え活力を取り戻させ、通過したオークの部隊の話を聞くと、その中にたいそう背の高い人間の男がいたと彼は言った。

そこでトゥーリンを助けるために自分が来たことを話すと、彼は一度は諦めることを勧めるが、ベレグはそれでもトゥーリンを見捨てず助けにいく決心であると言うと、彼も助力を申し出た。

 

アンファウグリスの不毛の地まで来るとオーク達は、狼を見張り番に立てて酒盛りを始めた。その頃空に稲妻が走り、西から風が吹き始めていた。

オークが眠った所でベレグはその強弓で狼を一匹ずつ確実に仕留めていった。そして二人は野営地に入ると、縛られたトゥーリンを発見し、綱を切ると抱き上げてそこから運びだした。

そこから少し上った茨の茂みまで来ると、これ以上彼を運べず二人はトゥーリンをそこで下ろした。ベレグはアングラヘルを抜くと、トゥーリンの手足の縛めを切った。

しかしこの時運命の力が強く働いた。足の枷を切った時アングラヘルの切っ先が、トゥーリンの足を少し刺したのである。彼はそれで目を覚ました。

彼はオークが再び彼を苦しめに来たと早とちりし、暗闇の中で掴みかかると敵の剣を奪い取り、彼の上に屈みこんでいた何者かを斬り殺したのである。

しかしその時一閃の稲妻が頭上を走り、自分が斬った者の顔を照らした。それはベレグの顔であった。

 

トゥーリンは石と化したように動かず、それを見つめ、傍らのグウィンドールは稲光に照らしだされるトゥーリンの顔の凄惨さに言葉もなかった。

オーク達は嵐のため野営地全体が大変な騒ぎとなっていたが、トゥーリンはグウィンドールの危険を告げる声にも全く反応せず、ベレグの亡骸の傍らにいつまでも座り込んでいた。

朝が来て嵐も去ると、オーク達はトゥーリンの捜索を諦めアングバンドへと帰還していった。トゥーリンは魂が抜けたように呆然と座り込んでいた。

グウィンドールはトゥーリンを促すとベレグを埋葬した。傍らには彼の強弓ベルスロンディングが置かれた。

しかしアングラヘルはグウィンドールが取り置き、無益に土の中にあるよりはモルゴスの召使に恨みを晴らすとよいと言った。

 

こうして最も信義に篤い、ベレリアンドの森の技にかけては右に出るもののいないベレグ・クーサリオンは、彼の弟子であり親友であった者の手によって最期を遂げたのである。

この悲しみは一生トゥーリンの中から消えることはなかった。

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