第一紀 ナルゴスロンドの陥落 -ロードオブザリング全史-

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ロードオブザリング
Nargothrond - Tolkien Gatewayより引用

490年 グウィンドールは自失した状態のトゥーリンを導くと、その場を離れ、彼を守って案内を務めた。二人は長い道の果て、エイセル・イヴリンの泉に到着した。

ここでグウィンドールはトゥーリンにこの水を飲むことを勧めた。何故ならばイヴリンの泉にはウルモの力が宿っていたからである。

その水を飲んだトゥーリンは正気を取り戻すと同時に、涙をはらはらと流した。ここで彼は亡きベレグに捧げる歌を作って歌った。

そこでグウィンドールは彼にアングラヘルを手渡した。その刀身は黒々としていて大きな力を秘めていたが、今は刃は鈍っていた。

そしてトゥーリンはグウィンドールの自己紹介を聞くと、父フーリンのことを尋ねた。

グウィンドールは「彼の姿は見てないが、モルゴスに公然と抵抗したため、彼と彼の肉親に呪いがかけられたという噂を聞いた」と答えた。

彼らはイヴリンを立ち去ると、南に旅を続け、ナルゴスロンドへと向かった。

 

ナルゴスロンドでは王女フィンドゥイラスが、グウィンドールの恋人であったため、彼らの帰還を喜んだ。そこでグウィンドールに免じて、トゥーリンもナルゴスロンドに滞在することを許された。

ナルゴスロンドの優れた刀鍛冶たちは、彼のためにアングラヘルを鍛え直した。刀身は黒いままだが、刃は青白い火の如く輝き、トゥーリンはこの剣をグアサング(死の鉄剣)と名付けた。

彼はその剣とドワーフの鎖帷子、そして敵に悟られぬよう竜の兜は身に帯びず、武器庫で見つけたドワーフの仮面を身につけて戦いに出た。

彼の示した武勇と剣の腕は殊に優れていたため、彼はモルメギル(黒の剣の意)とも呼ばれるようになった。敵はその剣と仮面を見ただけで逃げるようになった。

 

トゥーリンはオロドレス王に重用されるようになり、王の会議でも発言権を得たが、グウィンドールは常にトゥーリンの意見に反対した。

彼はアングバンドに囚われていたことがあり、モルゴスの手口を多少なりとも知っているからであった。

「例え幾つかの勝利を勝ち得ても、モルゴスはそれによって強敵の場所を悟り、十分な力を集めて、そこに破壊の鉄槌を振り下ろすのだ」と。

「今や秘密の中に行動するのが最良のことであり、ヴァラールが来るまでそうやって持ちこたえることだ」と発言した。

対してトゥーリンはヴァラールなどは当てにならず、小さくとも勝利を重ね、束の間であっても栄光を勝ち取るべきであり、例え最期に敗れようともせめて彼の者に一矢報いるべきだ、と主張した。

結局両者の意見が相容れることはなかった。

 

王女フィンドゥイラスはフィナルフィン王家ならではの美しい金髪の持ち主であった。トゥーリンは彼女を目にしたり、共に過ごしたりすることに喜びを覚えるようになっていった。

そして彼女の方も次第にトゥーリンに好意を抱くようになり、彼女の方から彼を探すようになった。

二人で語らう時、彼女はあまり見たことのないエダインのことについて尋ね、彼は快くそれに答えたりしたが、自分の故郷と係累については一切触れなかった。

フィンドゥイラスは彼を異性として好ましく思っていたが、トゥーリンは、幼いころに亡くした妹ラライスの面影を彼女に見出しただけであって、異性として見ているわけではなかった。

 

フィンドゥイラスの想いはグウィンドールとトゥーリンの狭間で揺れ動いていたが、次第に後者の方へ傾いていった。

しかしこれは彼女の心を苦しめた。グウィンドールのアングバンドでの受難のことを考えると、彼にさらに苦しみを与えることは、彼女の望むところではなかったからである。

それでもトゥーリンへの愛は日増しに増していった。しかし彼がフィンドゥイラスに向ける愛情は男女間のそれではなく、別の類のものであると薄々感じていた。そのためフィンドゥイラスの心は曇りがちになった。

それを見たトゥーリンは、グウィンドールのアングバンドに対する発言で彼女が恐れをなしたのだろう、と勘違いした。

トゥーリンはフィンドゥイラスに「グウィンドールの言葉を恐れないよう。モルゴスの手のものは皆撃退してみせる「と励ました。

それにフィンドゥイラスは、「ナルゴスロンドが失われないか、トゥーリンの出陣の度に胸が重くなる」とだけ答えた。

 

ある時、グウィンドールは暗然としてフィンドゥイラスに言った。「自分は今でも彼女を愛しているが、彼女はそれに捕らわれることなく、自らの愛の導く所へ行かれよ」と。

しかし用心するべきであるとも言った。イルーヴァタールの長子と次子の間で縁組をするのは賢明ではない。

彼らの命は短く、すぐにこの世を去ることになる上、ベレンとルーシエンのような例外はそうそうあるものでもなく、またトゥーリンはベレンではないと。

 

そしてグウィンドールは彼の真の名を、フーリンの息子トゥーリンであることを告げ、フーリンとその一家にはモルゴスの呪いが下されていると警告した。

それに対してフィンドゥイラスは今でもグウィンドールのことは愛しているものの、より大きな愛、トゥーリンに捕らわれてしまったことを告げると同時に、トゥーリンは自分を愛してはいないし、愛そうという気にもならないだろうと答えた。

そこでグウィンドールはならば何故トゥーリンはフィンドゥイラスを探し求めるのかと問いかけるが、それには彼も慰めを必要としているからだと彼女は答える。

そして三人の中に不実な者がいるのならそれは自分であるとも告げた。

 

その後トゥーリンは、グウィンドールとフィンドゥイラスの間で何が起きたかも知らずに、彼女が憂いを帯びた表情を見せていたため、よりいっそう優しくなった。

が、彼女は彼に言った。「何故自分から本当の名前を隠すのか、彼の素性を知れば尊敬の念は増し、より深く彼を理解できたであろうに」と伝えた。そして彼女は彼の真の名を知ったことを告げる。

これを聞いたトゥーリンは、激怒してグウィンドールに詰め寄った。「何故自分の本当の名を洩らしたのか、自分の運命を呼び出したのか、それから隠れようと自分はしているのに」と。

グウィンドールはそれに「運命はトゥーリン自身の中にあり、名前にあるわけではない」と答えた。

 

モルメギルが本当は、フーリン・サリオンの息子トゥーリンであることがオロドレスの耳に入ると、彼はトゥーリンを大いに礼遇した。そして増々王から重用されるようになった。

トゥーリンはナルゴスロンドのエルフたちの戦い方、秘密の中に行動するといった戦術を好まず堂々とした合戦をしきりに懐かしんだ。

そして王の会議で度々それを提案し、遂にそれが通ってしまい、ナルゴスロンドは隠密裡に戦うことを止め、フィンロドの城門からナログの川に大橋をかけ、堂々と進軍していくようになった。

グウィンドールはこれを無謀だと言って反対したのだが、彼の言葉に耳を貸す者は最早いなかった。

そしてナルゴスロンドの軍はアングバンドの軍を打ち負かし、モルゴスの召使どもはナログ川とシリオンの川に挟まれた全域から追い出された。

モルメギルの武勲は更に名高いものとなった。しかしこれによって遂にナルゴスロンドの所在がモルゴスに知られてしまい、彼の次のターゲットとなるのである。

 

491年 トゥオルはロルガンの元で三年間奴隷としての暮らしに耐え、三年目の終わりに脱出に成功して、無人になっていたアンドロスの洞窟に戻った。

トゥオルはその後の四年間を無法者として孤独に戦い、東夷やオークに甚大な損害を与え、数々の勲をあげた。

 

494年 ナルゴスロンドの軍勢のためにモルゴス軍が一旦退いた時、モルウェンとニエノールはこの猶予期間にようやくドル=ローミンを離れ、長旅を経てドリアスにまでやって来た。

しかし彼女は落胆した。既にトゥーリンはそこにはいなかったからである。またドル=クゥーアルソルが滅びて以来、竜の兜の噂も絶えて久しかった。

しかしシンゴル王はモルウェン母娘を賓客としてもてなした。

 

495年 年の初め、ウルモの導きでトゥオルがアンドロスの洞窟から旅立つ。そしてキーアダンの使者としてナルゴスロンドへ向かう途中のゲルミアとアルミナスに出会い、ゴンドリンのことを聞く。

トゥオルはキリス・ニンニアハを通ってネヴラストに入り、大海を初めて目の当たりにして魅了され、そのままネヴラストにこの年の秋まで独りで住まった。

 

495年 春、ナルゴスロンドにゲルミアとアルミナスという二人のエルフがやって来た。彼らはキーアダンの許から派遣され、水の王ウルモから啓示を受け、ナルゴスロンドに災厄が迫っていると告げた。

エレド・ウェスリンの山麓とシリオンの山道を探索したが、モルゴスの軍勢がサウロンの島に集結していると話した。

使者たちは、水の王の啓示を述べた。北方の邪悪なるものがシリオンの水源を汚したこと、ウルモの力は流れる水の上流から退くこと、ナルゴスロンドの城門を閉ざし外には出ないこと、誇りである大橋は叩き壊してナログの川に落とせと。

オロドレスはヴァラたるウルモの言葉に心乱れたがトゥーリンはこれに一切耳を貸さず、二人の使者をぞんざいに扱った。

 

それから間もなくブレシルがオークの軍に襲われ、ハレスの族長ハンディア王が殺された。そしてついにモルゴスは集結させていた大軍を、ナログ地方に向けて解き放った。

グラウルングもアンファウグリスを超えてやって来た。彼はシリオンの谷間を通過すると、エイセル・イヴリンを汚し、次いでナルゴスロンドの領土に入り込みナログの川とテイグリンの川に挟まれた平原を焼き尽くしたのである。

対してナルゴスロンドの兵士たちは勇ましく出陣して行き、その日トゥーリンは久々に竜の兜を被った。彼とオロドレス王が騎首を並べて進むと、兵士たちの士気はいや増した。

しかしモルゴスの軍勢は偵察隊の報告よりも遥かに多く、その上大竜グラウルングがいた。竜の兜に守られたトゥーリンを除いて、グラウルングの接近に耐えられるものは一人もいなかった。

 

エルフ達は退けられ、ギングリスとナログの二つに川に挟まれたトゥムハラドに追い詰められ、その合戦で敗北を喫した。王オロドレスは最前線で討ち死にを遂げ、グウィンドールは致命傷を負った。

トゥーリンが彼を助けに来たため、兜への恐怖から敵は逃げ去った。彼はグウィンドールを助けつつ戦場から抜け出した。

そこでグウィンドールは、前に自分がトゥーリンを助けたことの逆になったと言いつつも、自分はもう死んで中つ国を去らねばならないから、無駄なことだと言った。

そしてトゥーリンをあの日助けたことが不運で恨めしく思われると話した。それがなければ彼は愛と命脈を保っていたであろうし、ナルゴスロンドもまだ存続し得たから、と。

そこで自分はもう見捨てて、急ぎナルゴスロンドへ向かうようトゥーリンに言った。

死を前にした予見の力からか、「フィンドゥイラスのみがトゥーリンをモルゴスの呪いから救い出せる」と彼に伝え別れを告げた。

 

トゥーリンはナルゴスロンドへと急行したが、オークの軍勢とグラウルングは彼に先んじており、トゥーリンが到着した時には既に、ナルゴスロンドは略奪されていた。

城門前にかけられた大橋を渡って、ナログの深い川を易易と渡ることが出来たからである。トゥーリンの提案した石の橋は味方にとって今や災いとなってしまった。

殺害を免れたエルフの婦女子たちは、モルゴスの許へ奴隷として連れて行かれるため城門前のテラスに集められていた。

トゥーリンは敵を薙ぎ倒し剣を振るいながら、囚われた女性たちの方へと進んでいった。

 

丁度その時グラウルングが城門から姿を現した。彼はトゥーリンとその竜の兜を認めると、よくぞやって来たなと声をかけた。

そしてグラウルング自身その竜の兜の魔力を恐れていたため、トゥーリンからその守りを取り去ろうと試みた。竜は彼を嘲りつつ、彼を自分の従者であり家来であると呼んだ。

何故ならば自分を模した飾りを取り付けた兜を身に帯びているからだ、と言って挑発した。

トゥーリンはそれに答えて「世迷い事を、この竜の飾りはお前を嘲って造られたものだ」と返し、「さらにこの兜を帯びた者が自分に滅びを齎すのではないかと恐れ続けることになるだろう」と煽った。

 

しかしグラウルングは「それならいま眼の前にいる者ではなく、別の名の者を待つことになるな」と答え、「自分はフーリンの息子トゥーリンを恐れてはいない、奴は顔を晒して自分を見ることも出来やしない臆病者だ」と嘲笑した。

竜の恐怖は凄まじかったため、それまでトゥーリンは兜の面頬を下げて、彼の目を見ないよう注意していたのだが、自尊心から愚かにもこの嘲弄に乗ってしまい、面頬を跳ね上げ竜の目を直視してしまった。

すると彼は竜の目の魔力のため金縛りとなってしまった。そしてグラウルングは彼を嘲ると共に呪言を吐きかけ、お前の母と妹はドル=ローミンで惨めな生活を送っているぞと嘘を吹き込んだ。

 

その間にオーク達は捕らえたエルフ女達を連れて行った。その中にはフィンドゥイラスもいて、彼女は必至にトゥーリンに呼びかけたが、竜の呪縛下にある彼には届かなかった。

そして竜は呪縛を解くと身内の所へ急ぐよう囃し立てた。竜の呪言の影響下にある彼は、フィンドゥイラスの呼ぶ声にも耳を貸さず、ドル=ローミンへの道を急いで行った。

グラウルングは声高に笑った。主モルゴスに命じられた仕事を果たしたからである。それから大橋を叩き壊してナログ川に沈めると、フィンロド秘蔵の財宝を尽く集めて奥の広間に積み上げ、その上でとぐろを巻いた。

 

フィンドゥイラスは他の女達と共に捕虜としてオークに連れ去られるが、テイグリンの渡り瀬のそばでブレシルのハレスの族がオークを攻撃した時、オークに槍で木に磔にされる。

捕虜の救出に来たハレスの族のドルラスに対し、今際の際のフィンドゥイラスは「モルメギル。フィンドゥイラスはここにいる、とモルメギルに伝えて。」と言い残して死んだ。

ブレシルの男たちはその場所に塚を作ってフィンドゥイラスを葬り、その塚はハウズ=エン=エルレスと呼ばれた。

 

495年 秋、トゥオルは七羽の白鳥たちに導かれてヴィンヤマールの無人の宮殿に到達し、かつてトゥアゴンがウルモの指示で残しておいた剣と兜、鎖帷子、そして白鳥の翼の紋章のついた青い盾という一揃いの武具を発見する。

これを自身の宿命の証しと受けとったトゥオルは、発見した武具を身につけてヴィンヤマールの海岸に出た時、西方からの嵐と共に出現した水の王ウルモ自身から彼の使者としてゴンドリンへ行くよう指示を受け、マントを与えられた。

その翌朝トゥオルはウルモの予告通り、ウルモの力で船の難破からただ一人救われてヴィンヤマールの海岸に打ち上げられていたヴォロンウェを発見する。

トゥオルはヴォロンウェに導かれて、ゴンドリンを目指して旅立った。二人はこの年の過酷な冬に悩まされながらエレド・ウェスリンに沿って東へ向かった。

その途中でグラウルングに汚された後のエイセル・イヴリンに通りかかったとき、トゥオルは従兄であるトゥーリンと、互いにそれと気づかぬまますれ違った。

ゴンドリンに到達したトゥオルは、身につけていた武具からエクセリオンよりウルモの使者と認められ、ゴンドリンを放棄するべきであるというウルモの警告をトゥアゴンに伝えた。

しかしトゥアゴンは結局その警告を受け入れなかった。ゴンドリンに魅了されたトゥオルはそのまま留まり、トゥアゴンから寵愛を受けた。

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