460年 ゴルリムがサウロンの罠にはまり、ドルソニオンの無宿者たちがベレンを除いて全滅する(バラヒア、バラグンド、ベレグンド殺害)
ゴルリムはドルソニオンの無宿者たちの一人。ダゴール・ブラゴルラハの後、彼が国境近くの戦いから戻ると家は荒らされ、妻のエイリネルの姿はなく生死も判らなかった。
彼は妻を愛しており、エイリネルがまだ生きているのではないかという思いに囚われ、時折密かにかつての我が家を訪ねていた。
それがサウロンの知るところとなり、ゴルリムはサウロンが作り出したエイリネルの幻影におびき寄せられて捕虜となる。
拷問を受けた彼はその責苦と妻恋しさのあまりとうとう口を割り、エイリネルと共に釈放されることと引き換えに仲間たちのことを全て話してしまった。
するとサウロンはエイリネルが既に死んでいることを明かし、「望み通りエイリネルの許に行かせてやろう。わしにはもう用済みだ」と言ってゴルリムを殺した。
かくして隠れ処はオークによって襲撃され、ただ一人偵察に出ていて難を逃れたベレンを除き無宿者たちは全滅した。
ゴルリムの亡霊は、ベレンの夢の中に現れて自分の裏切りと危機を告げる。
ベレンは急ぎ隠れ処に戻り、父バラヒアを埋葬すると、単身敵の後を追って、リヴィルの泉でオークの隊長を殺し、バラヒアの指輪を奪回した。
その後ベレンはドルソニオンを放浪する孤独の無宿者となる。
以後、ベレンは4年の間ただ一人戦い続け、その勲はベレリアンド中に広まった。
この放浪時にベレンは鳥獣を友とし彼等に助けられたため、以後肉食をせず、モルゴスに仕えるものを除いていかなる殺生もしなくなったという。
ベレンはベオル家の最後の族長バラヒアと妻エメルディアの息子としてドルソニオンに生まれた英雄。
後にエルフの乙女ルーシエンと結ばれ、彼女とともにモルゴスの鉄の王冠からシルマリルの一つを取り戻した。
エルロンドの母方の曽祖父であり、アラゴルンの遠い祖先にもあたる。
462年 モルゴス軍がヒスルムを攻撃する。エイセル・シリオン包囲戦ではドル=ローミンの領主ガルドールが戦死したが、彼の息子フーリンはオーク達の大多数に仕留めるとエレド・ウェスリンから追い払い、アンファウグリスの遥か遠くまで追撃した。
フィンゴンは北方から攻めてきたアングバンドの大軍に手こずっていたところだったが、ファラスのキーアダンの援軍が到着したことで、エルフ側が勝利を収めた。
463年 東夷たちがベレリアンドに入る。東夷は褐色や土気色の肌を持つ、褐色人と呼ばれる人間たちを指す。
マイズロスは東夷と同盟を結び、その中でも特に力のある族長であったウルファングとボールに好意を示した。
464年 サウロンの追跡を受けたベレンはドルソニオンから脱出せざるを得なくなり、そこで人間が誰一人足を踏み入れたことがないドリアスに行ってみることを思いつく。
彼は恐怖の地ナン・ドゥンゴルセブを縦断し、その地に巣食う蜘蛛をはじめとした怪物と戦い抜いた。
この凄絶を極めた旅は彼の功業の中でも特筆すべきものの一つだったが、その時の恐怖があまりにも大きなものであったため、自らは決して語ろうとはせず、その足取りは謎に包まれている。
ついに恐怖と死を潜り抜けたベレンは、かつてメリアンが予言した如く、大いなる運命に導かれて魔法帯の惑わしと迷路を突破し、ドリアスへたどり着いた。
464年 フーリンとモルウェンが結婚する。同年中にドル=ローミンでトゥーリン誕生。
トゥーリン・トゥランバールの名でよく知られ、黒の剣グアサングの使い手であったことからモルメギルの名でも呼ばれた。
武勇に優れて数々の功業を立て、最後は龍のグラウルングを討ち果たすことになる。
だが彼はモルゴスに捕らえられた父フーリンを通してモルゴスの呪いを受けることになる。
彼の行動はその多くが裏目に出て、彼自身や彼の周りの人々を破滅に導くことになってしまった。
464年 夏の夕のネルドレスの森に迷い込んだベレンは、そこでひとり躍るルーシエンに生き逢う。
その美しさにたちまち魅せられたベレンだが、彼は口をきくことも動くこともできず、ルーシエンは視界から消え去り、ベレンは秋が去り冬が過ぎても狂おしく彼女の姿を追い求め続けた。
465年 春になり、歌い出したルーシエンの声に呪縛を解かれたベレンはついに彼女をティヌーヴィエルと呼び、その呼び声に立ち止まったルーシエンの許に走り寄る。
ティヌーヴィエルとはシンダール語で「薄暮の娘(Daughter of Twilight)」の意で、小夜啼鳥(さよなきどり)を指す詩的表現。これにちなみ、アラゴルン二世もアルウェンに初めて出会った時、この名で呼びかけた。
こうして二人は愛し合うようになり、再び夏になったネルドレスの森を二人は逍遥して過ごした。この時の二人ほど大きな喜びを味わった者は現在に至るまで他にいないと言われている。
だが二人の仲は伶人ダイロンを通じてたちまちルーシエンの父シンゴルの知るところとなり、人間を蔑視していたシンゴルはこれに大いに怒る。
シンゴルはルーシエンの愛に折れ、一度はベレンを殺すことも投獄することもしないと誓ったが、ベレンに対してはルーシエンと結ばれたくばシルマリルの一つをモルゴスから奪ってくるようにと難題を課した。
人々はシンゴルが誓いを違えることなくベレンを葬り去ろうとしていることに気づいたが、ベレンは笑ってこの難題を引き受けた。
ドリアスを後にしたベレンはナルゴスロンドに向かい、バラヒアの指輪を恃みにフィンロドから助力を引き出すことになる。
フィンロドはかつてバラヒアに立てた誓いに従ってベレンを助けようとしたが、そこにいたケレゴルムとクルフィンはフェアノールの誓言に突き動かされてそれを妨害。
そのためナルゴスロンドの臣民はフィンロドに背き、フィンロドはナルゴスロンドの王位を弟のオロドレスに託し、わずか10人の従者を伴ってベレンの探索行に同道することになった。
ベレンとフィンロドの一行は途中で出会ったオークの装備を奪うと、フィンロドの魔法でオークの姿に変装し、モルゴスの勢力圏であるシリオンの山道を通り抜けようとする。
だが正体を見抜いたサウロンの命によって一行はトル=イン=ガウアホスのサウロンの許に連行されてしまう。フィンロドはサウロンと歌で戦うが敗れ、一行は土牢に囚われた。
サウロンは一行の意図を探るために脅迫し、投獄した彼らを一人ずつ巨狼に喰わせた。サウロンは、フィンロドが一行の指導者だと推測していたため、フィンロドは最後まで殺さないようにしておいた。
やがて巨狼がベレンを食べに来た時、フィンロドは力の限りを尽くして自らの縛めを破り、ベレンを守って巨狼と相討ちになって死んだ。
ベレンが囚われたことを知ったルーシエンは、ドリアスを抜け出してベレンの救出に向かおうとするが、彼女が助力を求めたダイロンはそのことをシンゴルに告げたため、ルーシエンはシンゴルによってヒーリロルンの木の上に建てられた家に閉じ込められた。
ルーシエンは魔法で伸ばした自身の髪の毛で眠りの呪いが込められた長衣を織り上げると、番人を眠らせてヒーリロルンでの軟禁から脱出し、ドリアスを去った。
その後ルーシエンは偶然出会ったケレゴルムとクルフィンに騙され、ナルゴスロンドに囚われた。ケレゴルムはルーシエンと政略結婚することでベレリアンドにおける自分たちの権力を増大しようと目論んだ。
だがケレゴルムの猟犬フアンはルーシエンに同情し、主人に反してルーシエンを助ける。
フアンは強大な力を持ったヴァリノールの猟犬。何者もその視覚と嗅覚から逃れることはできず、いかなる魔術も彼を止めるには役に立たない。
高い知能と高潔な心の持ち主でもあり、あらゆる生類の言葉を理解することができたが、彼自身は生涯で三度のみ口を利くことが許されていた。
元々はオロメの猟犬であったが、オロメの友であったケレゴルムに与えられる。ケレゴルムに付き従って至福の国から中つ国に渡ったことで、フアンもノルドールに課された滅びの運命に繋ぎ止められることになったが、同時に「天が下にかつて存在したこともない強大な狼と戦うまでは死なない」という運命を下された。
フアンはルーシエンに助言を与えるために初めて口を利き、彼女を幽閉から救い出した。
ルーシエンはフアンと共にトル=イン=ガウアホスに向かいベレンの救出に挑む。
サウロンは配下の巨狼を次々と繰り出すが、皆フアンに一撃で殺されてしまう。そこで巨狼の祖たるドラウグルインを送り出すが、彼もまた激闘の末に敗北する。
ドラウグルインは瀕死の身で主の下に辿り着くと、敵がフアンであることを伝えて死亡する。
かねてから「フアンはかつて存在したこともない強大な狼と闘って命を落とす」との予言を耳にしていたサウロンは、自らを史上最大の狼に姿を変えて彼らの前に姿を現す。
巨狼サウロンが近づくに連れ、その恐怖の余りの凄まじさにフアンが怯み退いてしまったため、サウロンはルーシエンに容易く近づくことが出来た。
サウロンを目の前にしたルーシエンは失神してしまったが、倒れる寸前に眠りの魔力が込められた外套をサウロンに被せることに成功し、その魔力でサウロンは微睡み蹌踉めいてしまう。
その隙を突いて再び姿を現したフアンが、サウロンに跳びかかり両者の戦いが始まるが、フアンの予言された運命にある巨狼とはサウロンのことではなかったため、遂にサウロンは敗北を喫する。
そしてトル=イン=ガウアホスを明け渡すことと引き換えに助命する条件で、ルーシエンからの降伏勧告を受け入れたサウロンは、巨大な吸血蝙蝠に姿を変じるとタウア=ヌ=フインへと飛び去って、そこを恐怖で満たした。
サウロンの魔力が消失すると、トル=イン=ガウアホスの塔は崩れ落ち、地下牢は日に曝され、島に巣食っていた悪霊たちは雲散霧消した。 こうしてルーシエンは島に囚われていたベレンを救出した。
さらに囚われていた他のエルフたちもナルゴスロンドに戻ってきてフィンロドの非業の死を伝えたため、ケレゴルムとクルフィンの兄弟は民心を失ってナルゴスロンドを追放された。
兄弟にマンドスの呪いがつきまとっていることが誰の目にも明らかであったため、追放される二人に従おうとする者は彼らの民の中にすらいなかった。
この時クルフィンの息子ケレブリンボール(後に力の指輪を制作する人物)も父親と袂を分かった。フアンは戻ってきてケレゴルムに従ったが、両者の間にあった主従の愛は元には復さなかった。
そこで二人は東街道を通って長兄のマイズロスがいるヒムリングへ向かう。だがその道中、偶然ベレンとルーシエンの姿を目撃した二人はベレンを殺してルーシエンを奪い取ろうとした。
ケレゴルムは馬の蹄にかけてベレンをひき殺そうとしたが、ベレンは轢かれる寸前に跳躍し、傍を掠めて去ったクルフィンの馬に飛び乗った。
そして背後からクルフィンの首を掴んで強く引いた。二人は落馬し、ルーシエンは投げ出され草の上に横たわった。
ベレンはクルフィンを絞め落とそうとしたが、そこへケレゴルムが槍を構えて突進してきた。この時フアンはケレゴルムと絶縁し、彼に跳びかかり遁走させた。
ベレンはクルフィンからアングリストと言う短剣を奪うとクルフィンを投げ飛ばした。クルフィンはベレンを罵りながらケレゴルムの馬に乗り、去ってゆこうとした。
しかし隙を見て、クルフィンは弓矢をルーシエンに向けて射た。1本目はフアンが空中で咥えて防いだが、2本目はベレンがルーシエンの前に盾となり彼の胸に刺さった。
怒ったフアンが兄弟を追いかけたため彼らは恐れて逃げた。そしてフアンは薬草を咥えて戻ってきた。この薬草とルーシエンの癒やしの術、それと彼女の愛のおかげでベレンは回復した。