第一紀 ドリアスの滅亡 -ロードオブザリング全史-

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ロードオブザリング
Doriath | The One Wiki to Rule Them All | Fandomより引用

500年 トゥーリン・トゥランバールは死んだが、モルゴスのハドルの族に対する悪意はまだ満足していなかった。

フーリンの妻は気狂いとなって荒野を彷徨い、息子と娘は非業の死を遂げたにも関わらず、彼はまだフーリンに敵意ある仕打ちをしようと考えていた。

フーリンは不幸な運命にあった。彼はモルゴスの呪いの成果を、かの暗黒の王の歪んだ眼と耳を通じて、まざまざと見せつけられたからである。

 

そしてモルゴスはシンゴルとメリアンによって成された全てのことに、邪悪な光を投げかけようと努力していた。

時至れりと考えた彼は、フーリンの子らが死んでから一年後、フーリンを束縛から解放し、何処へでも好きな処に行って良いと告げた。

モルゴスはこの行為を、打ちのめされた敵に対しての、寛容さによるもののように装ったが、実の所彼の目的は、フーリンへのさらなる悪意のためであった。

フーリンは、モルゴスの言うこと成すことは何であれ殆ど信じなかったが、冥王の嘘にひとしおの怨みを懐きつつ、彼は悲しみのうちに出立した。

フーリンがアングバンドに囚われていた期間は28年にも及び、解放された時には彼は60歳となっていたが、彼の負うた悲しみの重さにも関わらず、今なお彼の中には強い力が秘められていた。

 

501年 フーリンはまず自身の領国ドル=ローミンがあったヒスルムに向かったが、ヒスルムまでの道中ではアングバンドの兵たちが護衛に付き、モルゴスから重要人物として礼遇されているように見えた。

そのため東夷はフーリンに手を出さずヒスルムの地を自由に歩かせ、ハドルの族の生き残りは彼を避けた。

フーリンは再びゴンドリンに行くことを望み、ヒスルムを去って、かつてソロンドールに見出され救い上げられたディンバールに入り、エホリアスの麓に来た。

 

フーリンの姿はソロンドールに発見され、トゥアゴンに知らされたが、フーリンがモルゴスに屈して間者になったのではと恐れたトゥアゴンは、フーリンの救出を躊躇した。

その後考えを改めたトゥアゴンは大鷲たちにフーリンを連れて来るよう命じたが、遅すぎて彼らはフーリンを発見できなかった。

一方、ゴンドリンを発見することができず絶望したフーリンは、ゴンドリンがあるはずの方角に向けてトゥアゴンを呼んで叫んだ。

その声はモルゴスの間者に聞かれ、モルゴスにゴンドリンのおおよその位置を知らせてしまうことになった。

 

その後フーリンは、眠りの中で妻モルウェンの嘆きの声を聞いたため、声がする方へ向かい、カベド・ナイラマルスにあるトゥーリンとニエノールの墓石に辿り着いた。

この場所でフーリンはモルウェンと再会して彼女の死を看取り、墓石のそばに葬った。

 

502年 フーリンはナルゴスロンドの廃墟へ赴き、そこでトゥーリンを裏切った者への復讐としてミームを殺した。

ベレグの「ハドル家の復讐が必ずお前にやってくる」という予言が現実となった。

 

そしてナルゴスロンドの大量の財宝の中からナウグラミーアだけを持ち出してドリアスへ向かい、アイリン=ウイアルで国境警備のエルフに捕えられ、メネグロスに連行された。

シンゴルの御前でフーリンは、自分の妻子がシンゴルによってドリアスから追放されたというモルゴスの目によって見せられた偽りのために怒りを滾らせ、妻子の保護への返礼と称してシンゴルの足許にナウグラミーアを投げ出した。

だがその時、彼の言動を咎めるメリアンの言葉によって呪いから解放され、自分がモルゴスに惑わされていたことを悟った。

フーリンは改めてナウグラミーアを自身の形見としてシンゴルに贈ると、ドリアスを去った。その後フーリンは目的も望みも全て失って、西海に身を投じたという。

 

フーリンがメネグロスを去った後、シンゴルは玉座に座したままナウグラミーアを見つめていた。ふとその時に、これを作り直してシルマリルをそこに塡め込もう、という考えが心に浮かんだ。

シンゴルはシルマリルを手に入れてからというもの、時が経つに連れ、彼の思いは絶えずフェアノールの宝玉に執らわれるようになっていて、最早メネグロスの宝物庫に大事に仕舞うだけでは飽きたらず、常に身につけていたいという気持ちになっていたからである。

そこで彼はこの仕事をドワーフの職人に任せることにした。

 

その頃のドワーフ達はエレド・ルインの彼らの都市からベレリアンドに旅をしており、サルン・アスラド(石の浅瀬)でゲリオン河を渡り、ドリアスにまでやって来ていた。

何故ならば、金属細工と石工の腕前にかけては、シンダール・エルフはドワーフには及ばなかったため、メネグロスの宮殿では彼らの業が大いに必要とされたからである。

しかし今では、ドワーフ達は昔のように少人数でやって来ることはなく、道中の危険から身を守るために、充分に武装した大部隊でやって来るようになっていた。

 

シンゴルは彼らを召し出し、もし出来るのならナウグラミーアを作り直して、そこにシルマリルを塡め込んで欲しいと伝えた。

ドワーフ達は彼らの父祖の傑作と、フェアノールの宝玉に魅入られた。そしてこの二つを我が物とし、自分たちの国に持ち去りたいという強い欲求に駆られた。

しかし彼らはそれをおくびにも出さず、その仕事を引き受けた。この仕事は長いことかかった。その間、シンゴルは一人でドワーフ達の仕事場を訪れては、絶えずその進捗状況を見守っていた。

やがて、ついにエルフとドワーフの各作品の中でも、最も優れたものがここで一つとなり、この上なく美しい芸術品が世に生み出されたのである。

 

シンゴルは早速これを手に取り頸にかけようとした。しかしドワーフ達はその手を押さえると、この首飾りを自分たちに引き渡すよう要求した。

彼らは、この首飾りは今はもう亡い、フィンロド・フェラグンド王に対して贈呈されたものであって、シンゴル王にどうして所有権があるのかと問うてきた。

ドル=ローミンのフーリンがナルゴスロンドから王の許へ持ち来たっただけではないかと言うのである。

 

これに対してシンゴルは彼らの本心を読み取り、シルマリルを己が手に入れんがために、自分たちに都合のよい口実をこじつけ、難癖をつけていることを見抜いた。

彼は激怒し自尊心から「ベレリアンドの上級王たるこの自分に、野卑な種族であるドワーフが、よくもそんなことを要求してのけたな」と言うと、「自分は発育不全の種族であるお前たちの先祖が目覚めるよりも遥か昔に、クイヴィエーネンの畔で目覚めたのだぞ」と彼らを侮辱した。

そして報酬なしで今すぐにメネグロスから立ち去るよう命じた。ドワーフ達はシルマリルへの欲望から、王の言葉に激高し猛り狂った。

そして彼らはエルフ王を取り囲むと彼を殺めたのである。こうしてドリアス王エルウェ・シンゴルロは、メネグロスの地下深くで独り死んだのであった。

 

シンゴルを殺したドワーフ達は、ナウグラミーアを奪うと、メネグロスを出て東に逃れようとした。しかし王を殺した者達の殆どが逃れることは出来なかった。

王の死の報せはドリアス中にすぐに行き渡り、復讐のための追跡部隊がドワーフ達に追いつき、これを殺したからである。ナウグラミーアは奪い返されて、悲しみに沈む王妃メリアンの許へと届けられた。

しかし追手の追跡を逃れて、エレド・ルインのノグロドに命からがら帰り着いた者が二人いた。二人はメネグロスでの事の詳細は語らず、ただ報酬を惜しんだエルフ王によって殺された、とだけ報告した。

殺された者の身内や仲間たちは、悲しみの余り鬚を掻き毟って泣くと同時に、激しい怒りが心に燃え盛った。

彼らは復讐するため、ベレゴストのドワーフたちに援助を乞うたが、これは断られ、逆に思い止まるよう説得されたのだが、ノグロドのドワーフたちはそれには耳を貸さず、復讐のため大軍を組織して、ドリアスに向けて進軍していった。

 

502年 トゥオルとかねてより両想いの仲であったイドリルとの婚姻がトゥアゴンに認められ、盛大な祝宴が開かれた。

かくてここに人間とエルフの第2の結婚が行われた。マイグリンはトゥオルの栄光と、彼が得た愛に嫉妬した。

 

503年 トゥオルとイドリルの間にエアレンディルが生まれる。

ニアナイス・アルノイディアドで敗北した際、フオルが死の前に予見した「ゴンドリンは最後の望みであり、そこからエルフと人間の望みが生まれる。フオルとトゥアゴンの間から新しい星が生じる」と予見した人物である。

フオルの息子トゥオルが、トゥアゴンの娘イドリルと結ばれてエアレンディルが誕生したことで現実のものとなった。

祖父にあたるフオルが予言したとおり、エアレンディルは後に中つ国の自由の民の救世主となる。

この頃、ゴンドリンは喜びと平和に満ち溢れていたが、先見の明を持つイドリルは心に兆した不安の為に秘密の道を用意させるよう手配した。

 

503年 ディオルとニムロスの間にエルウィングが生まれる。彼女はベレンとルーシエンの孫にあたる。

後にエアレンディルと結婚することになる。

 

503年 ドリアスの王妃メリアンは、シンゴルとの別れがさらに大きな別れへとなること、ドリアスの命運は最早尽きようとしていることを知った。

メリアンはもともとはエルフではなく、聖霊たるアイヌアのマイアールに属する者であって、ただエルウェ・シンゴルロへの愛のためだけに、エルフの姿をとってこの地に縛られて来たのである。

そしてその仮の姿でアルダに及ぼす力を得て、ルーシエンを産み、彼女の魔法帯によってドリアスは守られてきたのである。

しかし今やシンゴルは死に、彼の魂魄はマンドスの館へと去っていた。そして彼の死とともに、メリアンは変わってしまい、彼女の守りの力もドリアスの地から失せてしまった。

以後メリアンはマブルングを除き、だれとも口を利かなくなり、シルマリルに注意するよう、オッシリアンドにいる自分の娘とその夫に至急伝えるよう言い残すと、中つ国から姿を消してしまい、西の海の果てにあるヴァラールの国に、去っていってしまったのである。

 

こうして魔法帯の消えたドリアスにドワーフの軍勢は易易と侵入した。彼らは殆ど抵抗を受けなかった。

何故ならドワーフ軍は多数で猛々しく、対してシンダール・エルフの指揮官達は、王と王妃が急にいなくなったため、不安と絶望で何も出来ず、右往左往するばかりだったからである。

ドワーフ達はそのまま進軍するとメネグロスに入り、多くのシンダールを殺し、シンゴルの宮殿で略奪をほしいままにし、シルマリルをも奪った。

武勇に長けたマブルングも宝物庫の前で討ち死にした。この事は後々の世まで両種族の間での確執となる。

 

その頃ベレンとルーシエンは、オッシリアンドの最南に位置する川の中島トル・ガレンに住んでいた。

彼らの息子ディオル・エルヒールは、ガラドリエルの夫ケレボルンの縁者ニムロスを妻とし、二人の間にはエルレードとエルリーンという二人の息子とエルウィングという名の娘がいた。

ドワーフの大軍が石の浅瀬でゲリオンを渡ったという報せは、オッシリアンドのエルフたちにも伝えられ、そこからベレンとルーシエンにも伝わった。

更にドリアスからも使いが来て、メネグロス内でドワーフ達が働いた狼藉が伝えられた。

 

そこでベレンは立ち上がり、トル・ガレンを去るとディオルを伴って北へ向かった。オッシリアンドのエルフたちも多数彼に従った。

メネグロスからの帰途についたノグロドのドワーフたちが、再び浅瀬にさしかかった時、彼らは不意打ちを受けることとなった。

ドリアスでの略奪品を背負ったドワーフ達が、ゲリオンの土手を登った時、森中にエルフの角笛が響き渡り、一斉に矢が射かけられた。この最初の一撃で多くのドワーフが死んだ。

しかしこの待ち伏せを遁れたドワーフもおり、彼らはエレド・ルイン目指して逃げたが、エント達が現れドワーフ達を森に追い込み、全滅させた。

 

このサルン・アスラドの合戦でベレンは彼の最後の戦いを行った。彼はノグロドのドワーフ王を討ち取ると、ナウグラミーアを奪いとった。

ドワーフ王は死に瀕しながら、ドリアスの財宝全てに呪いをかけた。そこでドリアスの宝はアスカール川に沈められ、この時からこの川はラスローリエル(黄金の川床の意)と名づけられた。

しかしナウグラミーアだけは、ベレンの手でトル・ガレンに持ち帰られた。ドワーフどもが殲滅されたことを知ってもルーシエンの嘆きが止むことはなかった。

しかしナウグラミーアとシルマリルを身に帯びた彼女は、彼女の美しさも相まって、トル・ガレンの地を至福の国の如くに変えたとされる。

束の間ではあるものの、これ以上に美しく光に満ちた場所は、この世には存在しなかったと言われている。

 

一方ベレンとルーシエンの息子ディオルは、二人に別れを告げると妻や子供たちと共に、メネグロスへと出発し、無事到着した。

シンダール達は彼らの来訪を喜び、王と身内の死や、いなくなった王妃を嘆いていた日々から立ち上がった。そしてディオルを王に戴きドリアスの王国を再建しようと務めたのである。

そんなある秋の夜のこと、メネグロスに一人のエルフがやって来た。彼はオッシリアンドからやってきたエルフで、ディオルに目通りを願った。

彼はディオルに無言で宝石箱を手渡すと、直ぐ様去っていった。箱の中にはナウグラミーアがあった。ディオルはこれを見て、ベレンとルーシエンは今度こそ本当に死んで、この世を去ったことを知った。

後の世の賢者達が言うにはシルマリルの輝きが二人の死を早めたのだという。この宝玉を身に着けたルーシエンの美しさは、生者必滅の地にあって、あまりにも輝きが強すぎたのである。

そしてディオルは今や父母の形見となった、ナウグラミーアをその身に付けるようになった。

 

505年 シンゴルの世継ぎであるディオルがシルマリルを身に帯びているという噂は、ベレリアンドに四散したエルフの間でも知られるようになり、フェアノールの息子たちの耳にも入った。

そこであの恐ろしいフェアノールの誓言が、再びその効力を発揮した。放浪していた七人は再び集まると、ディオルの許に使者を出し、シルマリルを引き渡すよう要求した。

ディオルはこれに対し無視を貫いた。

 

506年 ケレゴルムは兄弟たちを煽動し、手勢を率いてドリアスに奇襲を仕掛けた。ここに二度目の同族殺害が行われたのである。

ケレゴルムはディオルの手にかかって死に、クルフィンとカランシアも命を落とした。しかしディオルと妻のニムロスも殺された。

ケレゴルムの召使い達は、ディオルの息子である幼いエルレードとエルリーンを捕らえると、無情にも森に置き去りにし、餓死するにまかせた。

マイズロスはこのことを悔いて、ドリアスの森を何日もかけて探したが、幼い兄弟の姿を見出すことは出来なかった。

こうしてドリアスは完全に滅ぼされ、再建不能となった。

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