第一紀は天空に太陽が昇った時から始まり、怒りの戦いによって終わる。太陽の第一紀とも呼ばれる。約600年間。宝玉戦争の舞台となった時代。
月と太陽の光はメルコールとウンゴリアントによって毒された後の二本の木から生じたものであるため、その光は不完全なものであり、これ以降中つ国は速やかに過ぎ行く時の流れに晒され、上古から存在した多くのものが衰え消え去っていくことになった。
ここからの年の数え方は太陽年(現実世界の同じ365日を1年とする数え方)になる。
1年 太陽が最初に空に昇る。モルゴスは太陽の船を導くアリエンのことを非常に恐れ、為す術がなかった。モルゴスには最早それだけの力がなかったのである。
弱体化した彼はアリエンの目に見られることと、彼女が舵を取る太陽の燦然とした輝きに長く耐えられなかった。
また、モルゴスの召使であるオークやトロルにとっても陽光は致命的であった。
彼は自分と自分の召使いたちを暗闇で覆って陽光から身を隠すようになり、モルゴス自身はますます地面から離れられず、暗い砦の奥に篭もるようになった。彼の国土は全て煙霧と一面の黒雲に包まれるようになった。
太陽が空に昇ると同時にヒルドーリエンという地で人間が目覚めた。そのため人間は太陽の子とも呼ばれる。
しかしこのこともまた、直ちにモルゴスの知るところとなる。これを大事件と思ったモルゴスは、アングバンドの指揮をサウロンにまかせて自ら密かに人間たちの許に赴き、かれらを誘惑したと言われている。
それゆえ、人間族はその歴史のはじめからモルゴスの投じた暗闇と虚言に付きまとわれている。東夷をはじめとした多くの人間がモルゴスとその召使の側に与しがちなのもそのためであった。
モルゴスの暗闇を拒み、そこから逃れようと西方を目指した人間の一派がエダインである。
人間の中で、かれらのみが公然とモルゴスを敵として戦うことを選んだが、そのかれらと言えどもモルゴスの暗闇から完全に自由ではなかった。
一方でヘルカラクセを渡って進軍してきたフィンゴルフィンは太陽の出現に動揺したモルゴスの手下がアングバンドの地下に隠れ潜んでいる間に、自らの軍勢を率いてアングバンドの城門の前まで進軍し、モルゴスに挑戦を呼びかけた。
だがモルゴスの策略を見抜き、すぐに兵を退いた。
5年 フィンゴルフィンの長男であるフィンゴンが単独でマイズロスの救出に向かう。
しかしフィンゴンは彼のいる場所までは達することができず、苦痛に苛まれたマイズロスは自分を射殺してくれるよう頼んだ。
この光景を発見した鷲の王、ソロンドールがフィンゴンをマイズロスの元まで運び、フィンゴンはマイズロスの右手を切り落として手枷から救い出した。
そのまま二人はソロンドールに運ばれてミスリムに帰還した。鷲の王ソロンドールはガンダルフの相棒として指輪戦争でも活躍したグワイヒアの先祖である。
生還したマイズロスは、ヘルカラクセ横断前に置き去りにした裏切り行為を謝罪してノルドールの王権を放棄する。
このため上級王位はフィンゴルフィンに渡ることになった。これによってノルドールは再び団結した。
6年 アングロド(フィナルフィンとエアルウェンの三男)がノルドールの中で初めてメネグロスに赴いてシンゴルにノルドールの帰還を伝えた。
シンゴルからノルドールがベレリアンドに住む許しを得る。
しかしシンゴルは多くの公子達が自らの領土に侵入してきたことを必ずしも快く思わず、またモルゴスの脅威が完全に去ったわけでもないため、ドリアスの魔法帯を取り除くことをしなかった。
ノルドールの公子達の目にはシンゴルのこの態度は傲慢で冷淡なものと映り、少なからぬ反感を買う。
7年 ノルドールがミスリムで会議を持つ。
再び一族の分裂を招くことを危惧したマイズロスは、あえて辺境の地を自分と弟たちの領土に選んで東ベレリアンドの領主となる。
マイズロスがヒムリング山の周辺、マグロールがマグロールの山間と呼ばれたゲリオンの上流域、ケレゴルムとクルフィンがヒムリング南西のヒムラドを、カランシアがゲリオン東岸のサルゲリオンを、アムロドとアムラスが後にエストラドと呼ばれるゲリオン西岸の地を領有し、統治した。
20年 メレス・アデアサドが開かれる。ノルドールの上級王フィンゴルフィンが催した宴。
フィンゴルフィンとフィンロドの一族の長や民の多くが出席し、フェアノールの息子たちからはマイズロスとマグロールが辺境国の戦士たちを伴って出席した。
ベレリアンドを放浪する灰色エルフやキーアダンと彼のファラスリム、オッシリアンドの緑のエルフも参加したが、ノルドールを嫌っていたシンゴルのドリアスからは、マブルングとダイロンがシンゴルの挨拶を携えて参加したのみだった。
この宴で同盟と友好の誓いが新たにされ、後々まで記憶された。
50年 トゥアゴン(フィンゴルフィンの次男)とフィンロド(フィナルフィンとエアルウェンの長男)にウルモから隠れ都市を造るようにという夢の啓示が下される。
52年 フィンロドとガラドリエルがドリアスに招かれる。フィンロドは夢のことをシンゴルに打ち明け、彼の助言を受けてナログの洞窟を発見し、ナルゴスロンドという要塞都市の造営を開始する。
ガラドリエルはドリアスに留まり、メリアンとの仲を深める。
53年 ウルモの導きでトゥアゴンが環状山脈の内側にあるトゥムラデンの谷間を発見した。隠れ王国の構想を抱く。
60年 ダゴール・アグラレブ(赫々たる勝利の合戦(Glorious Battle)、ベレリアンド第三の合戦)が起こる。
モルゴスがノルドールの軍事力を試そうとして仕掛けた戦い。
鉄山脈が突如として噴火し、オークの大群がアルド=ガレンの平原を渡って西はシリオンの山道、東はマグロールの山間を通ってベレリアンドへ侵攻してきた。
だが十分に警戒していたフィンゴルフィンとマイズロスはモルゴス軍の本隊がドルソニオンを襲撃しようとしていることに気付いており、先に侵入したオークを他の者に任せてこの本隊を東西から挟撃して敗退させると、今度は敗走する敵をアルド=ガレンで追撃し、アングバンドの門が見えるところで最後の一兵に至るまで潰滅させた。
合戦自体はその名の通りノルドール側の勝利だったが、ノルドールの公子たちはモルゴスの脅威を再認識し、彼に対する包囲を強化した。
こうして400年近く続くアングバンドの包囲が始まった。
フィンゴルフィンはこの包囲について「自分たちの中から裏切る者が出ない限り、モルゴスは二度と再び、エルダールの囲みを突破することも、あるいは油断を見すまして自分たちを襲うこともできないであろう」と豪語した。
しかし実際の包囲陣はモルゴスの根拠地アングバンドの後背となる鉄山脈に阻まれてその南側までしか及んでおらず、モルゴスは配下を山脈の北側から迂回させてベレリアンドへ送り込むことができた。そのため、包囲の間も完全に戦いが終息することはなかった。
とはいえノルドールの武勇と警戒によってモルゴスの勢力の大規模な伸長が阻まれていたのは確かで、その間ベレリアンドおよび中つ国の東方の地は比較的平穏を享受することができた。
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